二列目、窓側、君のとなり〜猫とノートと、君の声〜

放課後、駐車場の端。
黒白は今日もそこにいた。


近づいても逃げない。
むしろ、少しだけこちらを見上げる。

「機嫌いいの?」

背中に撫でると小さく目を細める黒白に、ふっと肩の力が抜ける。


ノートを開くと、
昨日の、あの言葉。

《触れたいけど、ダメかな》


また、心臓が跳ねた。

まるで答えを待っているみたいに、
黒白が足元にすり寄ってくる。


黒白の背中をもう一度撫でると、
体を預けてきた。

「……大丈夫そう」

小さく呟いて、ノートに書いた。


《触れても、大丈夫そう》


黒白のことを書いた。
ただ、それだけなのに、
心臓が痛いくらいに高鳴った。


ーー

次の日、朔に話しかけられて、
紬は少しだけ驚いた。

「橘」

「……あ」

視線を逸らす。
昨日の玲央とのやりとりが胸の奥でチクチク残っている。

"「気になるっていうか……」”
自分で言ったくせに、ずっと引っかかっていた。


もしかして、俺……
いや、そんなはずない。

朔と目を合わせられなかった。

「最近さ」

朔が低い声で言う。

「なんか避けてる?」

「え?」

「いや」

少しだけ首を傾げる。

「気のせいならいいけど」

胸がキュッと締め付けられた。

「……だ、大丈夫!」

思わず声が上ずる。

「ほんと?」

「うん!」

そのまま、逃げるように歩き出した。

ーーその瞬間。

ぐいっと手首を掴まれ、背中が壁に触れる。
目の前に朔がいて、逃げ場はない。


「…え」

「……逃げんなよ」

低く、少し息混じりの声。
朔の指先の温もりが手首に伝わる。

「俺、なんかした?」

朔の真っ直ぐな視線に、
紬は慌てて首を振る。

「違う……」

「じゃあ何」

息がかかる距離。
こんなに近くで朔の顔を見るのは初めてだった。

胸が痛いくらい高鳴り、顔が熱い。

「……ごめん」

朔が小さく息を吐いた。

「あ……」

「びっくりさせたよな」

「ごめん」

少し困ったように笑う。

「でもさ」

視線が少しだけ柔らかくなる。

「逃げられるの、普通に傷つく」

ーードクン。
心臓が跳ねる。

「だから」

指先が少しだけ力を強める。

「何かあったら言え」

紬は小さく頷いた。

「……うん」

朔は少しだけ目を細めて微笑む。

「よかった」

そう言って、一歩離れる。
その瞬間、空気が戻ってくる。

でも。
紬の心臓だけは、まだ全然落ち着かなかった。