席替えから、少し経った。
隣に朔がいることが、いつの間にか日常になり始めている――いや、慣れたのではなく、自然に意識してしまうだけなのかもしれない。
五限目、数学。
黒板のチョークが静かに響く中、紬はノートを必死に追っていた。
「そこ」
低い声にシャーペンが止まる。
朔がノートを指で軽く指した。
「符号、逆」
「あ……ほんとだ」
慌てて消しゴムで消して書き直す。
「ありがと」
「おぅ」
ぶっきらぼう。でもどこか優しい。
視線を戻そうとした紬に、朔は小さく笑った。
「最近ちゃんと聞いてるよな」
「え?」
「前は、もっと固まってた」
図星だった。
当てられると頭が真っ白になり、息が詰まっていたこと。
ずっと見られていたんだ――
「…べ、…別に」
思わず口にすると、朔が目を細める。
「またそれ」
くすっと笑われた。
胸の奥が、妙にくすぐったい。
なんでだろう。
くすっと笑われ、胸がくすぐったい。
隣に朔がいる。それだけで、妙に意識してしまう。
ーー昼休み。
屋上へ向かう階段の途中で、声をかけられた。
「紬」
振り返ると、問い詰めるような視線で玲央が近づいてくる。
「最近さ」
「朔とよく話してるよな」
「え、いや……」
うまく返せなくて、言葉が詰まった。
「帰りも一緒じゃないし」
「何があったんだよ」
こんな玲央、初めて見た。
「べ、別に……何も…」
言いかけて、止めた。
違う。
何もないわけじゃない。
玲央は黙って紬を見ている。
「……席、隣になって」
ぽつりと話し始める。
「それで、ちょっと話すようになって」
玲央は何も言わずに、
ただ、じっと聞いている。
「なんか……」
言葉を探すけど、
うまく説明できない、
胸の奥にある、この変な感覚。
「よく分かんないんだけど」
「気になるっていうか……」
玲央にこんな事を話してることに、
自分でも驚いた。
玲央はしばらく黙っていて、
その沈黙が、少し怖かった。
「……そっか」
やっと出た言葉は、それだけだった。
でも。
その表情を見て
玲央が何かに気づいたことだけは、
紬にも分かった。
