腐男子くんは三人の溺愛から逃げられない~推しカプ観察してたら本人たちにバレました~

「答えてもらおうか」

 落ち着いた声でそう言ったのは、背の高い、真面目で隙のない男だった。静かな口調なのに、有無を言わせない圧がある。
ドーナツの甘い香りが漂うカフェの個室が、その一言で一気に張りつめた。

(やめて。それは……腐男子に一番聞いてはいけない質問だ)

 心の中で叫びながら、視線を泳がせる。
 どうにかして、この場から逃げなければ。
けれど、席を立つ理由も、うまい言い訳も思いつかない。

「逃げても無駄だよ」

 くすりと笑ったのは、そばにいるだけで場の空気を明るくする、距離の近い陽キャの男子だった。 人懐っこい笑みを浮かべたまま、逃げ道を塞ぐみたいにこちらを見ている。

「誰を選ぶんだ?」

 真面目な男が、もう一度口を開いた。 冗談の気配はない。ただ静かな圧だけが、逃げ場を塞ぐように場に落ちてくる。

「俺たち、ずっと好きだったんだから」

 柔らかな王子様みたいな笑みを浮かべた男の言葉に、稔は思わず固まった。
三人の視線が、一斉に自分へ向く。

(いや待って、三人で付き合えばよくない?)

 ――なぜ、僕なんだ。
 
 普通の高校生、小野寺稔(おのでらみのる)。目立たず、運動も勉強もそこそこ。
そして――ただの腐った妄想オタクである。
なのに今、顔面偏差値が校内トップクラスの三人に囲まれ、恋の答えを迫られている。いつもは遠くから「尊い……」と拝んでいるだけの、ただの観測者だったのに。
 まさか自分が、ドーナツの穴みたいに、三人の真ん中にはめ込まれるなんて。

(いや、どうしてこうなった……)

 店内には、まだドーナツの甘い香りが漂っている。
――そして三人の視線も、なぜか同じくらい甘かった。

 これは、腐男子の観測者だった僕が、三人から同時に告白され、なぜか溺愛されるようになった話だ。