* * * 翌朝は雪がちらついていた。 官舎の門の外で、静かな足音が止まる。 「地方官舎視察のため、陛下のお成りです」 その声は、低く、よく通っていた。 瑤華は立ち上がり、袖を正す。 胸の奥が静かに冷え、同時に、長く忘れていた熱が灯る。 門を開ける前にただ一度だけ振り返れば、よそ行きの赤い着物を着た珠児が興味深そうに門の向こうを見つめている。 ――この子を、どうか。 祈るような気持ちで門に手をかけ、彼女は選び続けてきた日常の外へ一歩を踏み出した。