身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~


 名が並ぶ頁を、淡々と繰る。
 ――書かれていない名があることも、承知して。

「ここ、出生届が足りません」

 上役が眉をひそめる。

「町の者は、届けを嫌うからな」
「ええ。ですが、今は無理に正す時期ではありません」

 彼女の言葉に、誰も反論しなかった。官吏たちの仕事は皇帝の巡察に耐える文書を作ることが優先されるからだ。
 その日の瑤華は、官庁に掲げられた巡察の通達を遠目に見ただけで、近づいてまで確認することをしなかった。
 そのまま珠児のもとへ戻った瑤華は彼が室内で木片を揃えているのを見て首を傾げる。

「それ、なあに?」
「お役所」

 珠児の即答に瑤華は思わず笑っていた。

「どうしてお役所なの?」
「今日ね、みんなが言ってたよ。えらい人、来るんでしょ?」

 小さな指が木片を一つ動かした珠児は真ん中に、少しだけ大きな石を置いた。
 それを見て、瑤華は問いかける。

「この人が、いちばんえらいの?」
「うん。皇帝陛下」

 自信満々でこくりと頷く珠児を見て、胸の奥がわずかに痛む。

「――そうね。雲の上のひと。とても、えらい人ね」