身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

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 翌朝、官庁に入るといつもより人の出入りが多かった。ざわざわと小波のように官吏たちが話をしている。
 文書棚の前で足を止めた瑤華はどこかピリピリした空気に声を尖らせる。

「なにがあったの?」
「ああ、白官吏。どうやら巡察が入るそうですよ」

 同僚の低い声に、彼女は手を止める。

「この時期に? いったいどなたが?」
「それが……皇帝陛下自ら、だとか」

 瑤華は頷き、すぐに筆を取り直した。
 巡察そのものは不備を洗い出し、誤りを正して余計な言葉を削ぐという整える仕事に通じている。その作業に慣れている瑤華はいつものように戸籍整理の文書を確認し、朱を入れる。たとえ皇帝陛下がその行為を見に来るとしても。