身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~


 五年前も、北方の町でも、そしていまも。
 ただ一人を選び、その選択を覆さない。
 珠児が玄耀の首に腕を回し、楽しそうに言った。

「ねえ、とうさま」
「なんだ」
「ここ、すき」

 玄耀は一瞬だけ目を細め、それから瑤華を見る。

「聞いたか」
「ええ」

 瑤華は微笑み、頷く。
 この場所は、後宮ではない。
 逃げ場でも、仮初めの居でもない。
 皇帝と、その妻と、その子どもがただ家族として暮らすための場所。
 瑤華は筆を置き、玄耀と珠児のもとへ歩み寄る。

「お昼にしましょうか」
「賛成」
「包子がいい!」

 三人分の笑い声が、春の庭に溶けていく。
 秘された珠は、もう秘されてはいない。
 国の未来を担う存在として、そして何より――愛される子として。

 還る場所は、最初からここにあったのだ。
 ただ――迎えに来るのが、少し遅かっただけ。


――fin.