身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~


「五年だ。五年も、我はそなたを探していた」

 逃げることも、拒むこともすべて織り込み済みだったかのように彼は「待っていたぞ」と感慨深げにつぶやく。

「今さら、逃げ道があると思うなよ」

 その声は低く、静かで、逃がさない。

「我が妻として、我が子の母として――そなたを離すつもりはない」


   * * *


 春の気配が、皇城の庭にも降りてきていた。
 高い塀に囲まれた後宮のさらに奥、政務殿にほど近い場所に、新たに整えられた一角がある。
 それは妃のための宮ではなく、皇帝の私生活と執務が静かに交わる場所だった。
 新たに造られた庭では、ひらひらと舞う蝶々を追いかけて小さな子どもが走っている。

「まって、まって」

 まだ拙い足取りで回廊を駆け、敷石につまずきそうになったところを、大きな手が難なく抱き上げた。

「危ないと言っただろう、珠児」
「だって、ちょうちょが」

 得意げに言い返す珠児に、玄耀は困ったように眉を下げながらも、その口調はひどく甘い。

「だからといって、追いかけたら逃げるだろう?」
「えー」

 そのやりとりを、文机の前から瑤華が見ていた。