身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~


 瑤華は自分自身に問いかける。
 胸の奥に、小さな棘が残っていた。
 皇帝陛下の命令に背いたと、いくら玄耀が許してくれても罰せられる可能性もある。そうなったら本末転倒だ。
 やさしい彼は、どう思うだろう。
 玄耀――その名を考えること自体が、もう贅沢だということに、瑤華は痛いほど理解していた。
 文を箱にしまって、ため息をつく。

「……行けない」


   * * *


 翌朝の珠児は、いつもより静かだった。
 朝餉の粥を口に運びながら、ちらちらと母の顔を窺っている。

「どうしたの?」
「……ねえ、かあさま」

 珠児は小さな声で母に聞く。

「へいか、もう来ないの?」

 瑤華の手が止まる。

「……お仕事が忙しいのよ」
「そっか」

 一度は納得したように頷いた。が、それからぽつりと零す。

「でもね」

 箸を置いて、まっすぐ瑤華を見る。

「珠児、へいかのこと、すき」

 胸が、きゅっと縮む。

「ふーってしてくれたし」
「ごはん、はんぶんこしてくれたし」
「……とうさま、みたいだった」