彼女と珠児を「戻る場所」へ押し戻そうとしている。
「……困ったわね」
室に戻った瑤華は誰にも聞こえない声で呟く。
玄耀と一緒にごはんを食べた夜の珠児の笑顔を思い出す。その後の濃厚な夜のひとときも……。
皇城の高い空と、北方の静かな町が、胸の中でせめぎ合う。
――身を引いたはずなのに。
瑤華は、まだ届かぬ召書を思いながら、
揺れる心を押さえ込むように、文書へ朱を入れた。
* * *
北方官舎に、皇城の紋が入った封が届いたのは、雪の止んだ翌日のことだった。
「……白官吏宛ですね」
封を受け取った役人が、少し戸惑った顔をしている。
皇城からの書状が、地方の一官吏に直接届くことなど滅多にない。瑤華は一礼し、静かに受け取った。
厚手の紙。朱の封蝋には、見慣れた――忘れようとしていた紋章。
瑤華はひとりになってから、そっと、封を切った。
『北方戸部主事 白瑤華
其方、戸籍整備における功、まことに顕著なり。
よって皇城へ召し、新設される戸部監察補佐の任を与えんとす。
期日までに、子とともに参内せよ。
――景朝皇帝 景玄耀』



