* * *
瑤華がその噂を聞いたのは、官庁の裏庭だった。
「聞いた? 皇城からの通達」
「地方の出生届、今後は厳しく咎めないんですって」
「しかも母親が官吏なら、子どもも正式に守られるとか」
瑤華の手が、筆の上で止まる。
「……ずいぶん急な話ですね」
平静を装った声とは裏腹に、胸の奥がざわついていた。
官庁での雑務を手伝う女性たちは官吏である瑤華に声をかけられてそれぞれが興奮気味に話しはじめる。
「それだけじゃないのよ!」
「北方の官吏が、皇城に召されるって」
ごくり、と喉が鳴る。
「たしか白瑤華、って名前……あなた知ってる?」
風が、ひゅうと吹き抜けた。
――うそ。
心の中で否定を重ねるのに、指先が冷えていく。
「皇帝陛下が直々に名指ししたそうよ」
「出自も後宮の過去も不問だって」
瑤華は、視線を落とした。
あの夜。
「三人で」と言った彼の声が、脳裏によみがえる。
――わたしは、身を引いた。彼は理解してくれたと、そう思ったのに。
それでも国家が、法が、皇帝が。



