身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

「父の名がないだけで切り捨てられる民。正しき名を与えられず、記されぬまま生きる子どもたち。それを生んだのは、誰だ?」

 誰も答えられない。

「法とは、選ばれた者を守るためにあるのではない――守れなかった者を、救い上げるためにある」

 玄耀はきっぱりと言い切った。

「……よって、出生届の遅延・父不詳を理由とした不利益を禁ずる。なお、母が官吏である場合、その子の身分は正規に保護されるものとする」

 ざわめきが大きくなる。

「さらに――」

 玄耀は、ほんのわずか呼吸を置いて、周囲を黙らせるように声を張り上げた。

「地方官吏において、優れた文書管理能力を有する者は、出自・性別・後宮との関わりを問わず、昇進の対象とする」

 沈泰正が一歩前に出る。

「陛下。具体的な人選を」
「北方州、戸部主事。白瑤華」

 殿内は完全に静まり返った。

「彼女を、皇城へ召す――これは情ではない。国のためだ」

 そう締めくくった玄耀の声音は、揺るぎなかった。
 だが沈泰正だけは知っている。
 その決定が、五年前から一度も揺らいだことのない皇帝の執着と溺愛の末に出た結論であることを。