身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~




 皇城、承天殿。
 朝靄の名残が白く柱間に漂うなか、文武百官が居並ぶ玉座の前で、朝議は粛々と進められていた。

「――次、戸部より奏上」

 呼ばれて進み出たのは、玄耀直属の臣下である沈泰正である。
 一礼ののち、静かな声で奏を読み上げた。

「近年、内乱の影響により地方における戸籍の混乱が顕著であります。特に北方州では、出生届未提出の子が一定数確認されており――」

 ざわり、と殿内が揺れる。

「その是正のため、戸部では新たに地方戸籍再整備令を奏請いたします」

 老臣のひとりが面倒くさそうに、眉をひそめた。

「出生届を出さぬ民など、法を軽んじる不届き者。今さら救済する必要がありましょうか」
「左様。とくに父不詳の子など、血筋の曖昧な者を……」

 その言葉が終わる前に、玉座から低い声が落ちる。

「――その認識が、内乱を招いた」

 一瞬で空気が凍る。五年前に皇城を混乱に陥れた内乱の首謀者は、死んだ兄皇子が辺境で産ませたといわれる男児を旗印に挙げていたからだ。
 景玄耀は、静かに臣下たちを見下ろしていた。