身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

「もう少しだけ、こうしていろ」

 玄耀は瑤華の額に、そっと口づけた。

「瑤華」
「……はい」
「いまはまだ、戻れとは言わぬ」

 だが、と続ける。

「戻る場所を、作らせてくれ」

 腕の中で、瑤華は静かに息を吸った。

「……わたしは後宮には戻りませんよ」
「知っている。だから作るのだ」

 彼は、眩い朝の陽光が煌めく中で、確かに笑っていた。皇帝らしからぬ不適な笑みに、瑤華はゾクリとする。
 そのとき、隣の間から、ぱたぱたと小さな足音が聞こえてきた。

「……あ」
「来たな」

 蕩けそうな表情をしていた玄耀は腕を緩め、凜とした表情に戻り、乱れた着衣を整えはじめる。すこしだけ、名残惜しそうに。

「つづきは?」
「……一晩だけって言いましたよね」
「そなたと過ごす夜が一晩で済むわけないだろう?」

 その言葉が、冗談に聞こえないほど真剣で、瑤華の呼吸が止まる。
 だが、珠児の声が障子の向こうから聞こえてきて、ふたりは我に返る。

「かあさまー!」
「いま行くわ」

 瑤華は振り返らずに答え、パタパタと立ち去っていく。
 玄耀は、朝の光の中で静かに彼女を見送った。