「そなたにふれずにいた時間だ」
声が、低く掠れている。
「だが、今夜すべてを取り戻そうとは思わぬ」
「……」
「ただ、確かめさせてほしいのだ」
瑤華は、そっと彼の衣の上から胸元に手を置いた。
「……ここに、います」
「それで足りる」
額が重なり、吐息が近づく。
口づけは浅く、何度も。探るように、確かめるように繰り返された。
そのまま、言葉は途切れ、夜は静かに溶けていった。
灯のない室内で、衣擦れの音と、互いの名前だけが小さく響く……。
* * *
鶏の声が、遠くで一度だけ鳴いた。
瑤華は、温もりに包まれたまま、ゆっくりと目を覚ます。
視界いっぱいに、玄耀の胸元があった。
――近い!
驚いて身じろぐと、すぐに腕が動く。濃い色気が残ったままの、玄耀の甘やかな声音が瑤華を捕らえていた。
「我が愛、唯一の花……逃げるな」
「に、逃げません!」
かすれた声に、彼が小さく笑った。
「冗談だ」
そう言いながらも、腕は解かれない。
「朝だな」
「ええ……」
「まだ、珠児は起きぬ」
まるでそれを理由にするように、彼は囁く。



