「でも……」
言葉が続かない。
「責めぬと言った」
「……」
「だが、失いたくないとも言っただろう?」
彼の手が、そっと瑤華の袖口に触れる。道に迷った幼子が母親を求めるかのような彼のささやかな仕草に、彼女は息を呑む。
「今夜は帰った方がよいか」
「……いいえ」
「では、ここにいる」
「……はい」
玄耀は初めて、安堵したように笑みを浮かべた。
「それでよい。我が愛、唯一の花――」
指先が、そっと袖をなぞり、手の甲を撫ぜる。
どこか許しを請うような、遅い動き。なのに熱を帯びた甘やかさがそこにある。
瑤華は逃げなかった。
「冷えているな」
「……冬ですから」
「違う」
玄耀は瑤華の手を包み込みながら悔やむ。
「我が、温めていなかったからだ」
胸の奥でわだかまっていた何かが溶ける、そんな錯覚に瑤華は陥っていた。五年前、初めて彼が後宮で暮らす瑤華のもとを訪れて愛を囁かれたときのようで。
「瑤華」
「……はい」
「今宵、我は皇帝ではない」
彼は視線を落とし、低く告げる。
「夫でも、父でもない」
それでも、と続くのは懇願だった。



