身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~




 官舎の灯がひとつ、落とされた。
 奥の間から聞こえていた寝息が、規則正しいものに変わったのを確かめてから、瑤華はそうっと襖を閉める。

「……眠りました」
「そうか」

 玄耀は立ったまま、彼女を見ていた。
 町での柔らい空気をまだ身にまとったまま。

「今日は、騒がせてしまいましたね」
「いや。我も楽しかった――あの子は、よく笑うな」
「……ええ」

 珠児の話題を出されたことに、瑤華の指先が強張る。

「それに、似ている」
「誰にでしょうか」
「分かって言っておるであろう?」

 責める声音ではない。けれど確信に迫った彼の言葉から逃げ場を探すことはできずにいた。
 瑤華は沈黙で応える。
 それを見て、玄耀もまた質問を変えた。

「名を変えなかった理由を聞いてもよいか」
「……必要ないと思ったからです」
「ほう」
「後宮から逃げ出した女の名前など、陛下はすぐ忘れてしまうと、そう思っ……?」

 ぐっ、と手首を掴まれ、瑤華の瞳が揺れる。

「忘れるわけないだろう?」

 瑤華は唇を噛み、視線を伏せた。

「――見くびっていました。あなたが、ここまで来るとは」
「そうだろうな」