冬の朝、景朝国のはずれに位置する北方官舎は静謐を保っていた。雲ひとつない晴れ間に、冴えた風が瑤華の頬を撫ぜる。
長い髪をひとつに結い上げた彼女は、庭先で湯を沸かして簡素な粥をかき混ぜていた。
……その足元を、小さな影がちょろちょろと走り回っている。
「こら、走らないで。転ぶわよ」
そう言いながらも声が柔らぐのは仕方がない。この子がいる日々が、彼女にとってはすべて。生きる意味に繋がっているからだ。
粥を用意した瑤華は素早く朝餉を済ませ、着替えをはじめる。無地の素っ気ない紺色の官服に袖を通し、本日の仕事で必要な文書をまとめる。
息子の髪を結い、外套を羽織らせれば準備は完了だ。
「珠児、行くわよ」
「はい、かあさま」
官吏としての顔と母としての顔を自然に切り替えて、瑤華は珠児を連れて家を出た。



