流星群の夜から数日後のこと。
麗華の侍女が、慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
「正妃様、大変なことがわかりました」
麗華は顔を上げた。
「側妃様のことです。呪術師様が、さらに詳しく呪いの経緯を調べてくださって……」
侍女が持ってきた話は、こうだった。
雪蘭が三年間にわたって、延徳帝に嘘をついていた。
その内容は複数あったが、中心にあったのは麗華についてのものがほとんど。
雪蘭は延徳帝に、麗華が政略結婚を利用して皇室の財産を故郷に流そうとしていると告げた。
麗華が臣下たちと秘密裏に会合を持ち、延徳帝を廃して自分が実権を握ろうとしていると囁き、麗華が側仕えを使って、宮廷の機密情報を外部に漏らしているとも言った。
どれも事実ではない。
しかし雪蘭は巧みな証拠の偽造と、信頼できる人物を装った証言を組み合わせて、延徳帝に信じ込ませていたのだ。
延徳帝が麗華を遠ざけていた理由の、少なくとも半分はそこにあった。
雪蘭への愛情と、麗華への警戒心。その両方を、雪蘭は意図的に作り出していたのだ。
雪蘭は他の臣下に対しても同様の謀略を仕掛け、彼女は自分の地位を守るために、三年間かけて宮廷の人間関係を操っていた。
報告は延徳帝にも届く。
麗華がそれを知ったのは、翌日の夕方のこと。
延徳帝が部屋を訪ねてきて、扉の前に立ったまま言った。
「雪蘭の件について、詳しく調べた結果が出た」
「聞いております」
「……お前に、謝罪しなければならないことがある」
麗華は静かに彼を見た。
延徳帝の顔は複雑だった。
いつもの険しさの下に、見たことのない表情。
それが何なのか、麗華にはすぐにはわからない。
「三年間、お前を誤解していた。正確には……雪蘭の言葉を信じ、お前への疑惑を持っていた」
「はい」
「それは間違いだった」
麗華はゆっくり息を吸う。
「なぜ私から離れようとなさったのか、わかりました」
「お前は……怒っていないのか」
「怒っていないといえば嘘になります」
と麗華は正直に話し始める。
「三年間、もう少し話しかけてくだされば、何か変わっていたかもしれないとは思います。でも、今更それを言っても仕方がありません。陛下も騙されていたのですから」
「それで済む話ではない」
「そうかもしれません。しかし私は残り一年も満たない命ですし、怒りに費やす時間がもったいないとも思っています」
「……お前は強い女だ」
「強くはありません。私には時間が残されていませんから」
延徳帝の目が揺れた。
「ただ、もともとが諦めのよい性格なのかもしれません。それが良いことかどうかは、わかりませんが」
延徳帝はしばらく黙っていた。それから、前より低い声で言った。
「残りの願いを、急いで叶えよう」
「急いで、とは?」
「体の具合が悪化する前に」
それだけ言って、延徳帝は立ち去ろうとした。
「陛下。……雪蘭様のことを、どう思ってらっしゃいますか」
長い沈黙の後、延徳帝は言った。
「わからない」
「そうですか」
「お前は?雪蘭を恨んでいるか」
「命を縮められたことは、確かに悔しいです。でも彼女も、それだけ必死だったのでしょう。愛した人を失いたくなかったのだと思います。その気持ちは……わかる気がします」
延徳帝は答えなかった。ただ、麗華をまっすぐ見た。
麗華はその視線の中に、初めて何かを見た気がしたけれど、それが何であるかは、まだわからなかった。
ただ、何かが確実に変わり始めているという、静かな確信があった。
麗華の侍女が、慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
「正妃様、大変なことがわかりました」
麗華は顔を上げた。
「側妃様のことです。呪術師様が、さらに詳しく呪いの経緯を調べてくださって……」
侍女が持ってきた話は、こうだった。
雪蘭が三年間にわたって、延徳帝に嘘をついていた。
その内容は複数あったが、中心にあったのは麗華についてのものがほとんど。
雪蘭は延徳帝に、麗華が政略結婚を利用して皇室の財産を故郷に流そうとしていると告げた。
麗華が臣下たちと秘密裏に会合を持ち、延徳帝を廃して自分が実権を握ろうとしていると囁き、麗華が側仕えを使って、宮廷の機密情報を外部に漏らしているとも言った。
どれも事実ではない。
しかし雪蘭は巧みな証拠の偽造と、信頼できる人物を装った証言を組み合わせて、延徳帝に信じ込ませていたのだ。
延徳帝が麗華を遠ざけていた理由の、少なくとも半分はそこにあった。
雪蘭への愛情と、麗華への警戒心。その両方を、雪蘭は意図的に作り出していたのだ。
雪蘭は他の臣下に対しても同様の謀略を仕掛け、彼女は自分の地位を守るために、三年間かけて宮廷の人間関係を操っていた。
報告は延徳帝にも届く。
麗華がそれを知ったのは、翌日の夕方のこと。
延徳帝が部屋を訪ねてきて、扉の前に立ったまま言った。
「雪蘭の件について、詳しく調べた結果が出た」
「聞いております」
「……お前に、謝罪しなければならないことがある」
麗華は静かに彼を見た。
延徳帝の顔は複雑だった。
いつもの険しさの下に、見たことのない表情。
それが何なのか、麗華にはすぐにはわからない。
「三年間、お前を誤解していた。正確には……雪蘭の言葉を信じ、お前への疑惑を持っていた」
「はい」
「それは間違いだった」
麗華はゆっくり息を吸う。
「なぜ私から離れようとなさったのか、わかりました」
「お前は……怒っていないのか」
「怒っていないといえば嘘になります」
と麗華は正直に話し始める。
「三年間、もう少し話しかけてくだされば、何か変わっていたかもしれないとは思います。でも、今更それを言っても仕方がありません。陛下も騙されていたのですから」
「それで済む話ではない」
「そうかもしれません。しかし私は残り一年も満たない命ですし、怒りに費やす時間がもったいないとも思っています」
「……お前は強い女だ」
「強くはありません。私には時間が残されていませんから」
延徳帝の目が揺れた。
「ただ、もともとが諦めのよい性格なのかもしれません。それが良いことかどうかは、わかりませんが」
延徳帝はしばらく黙っていた。それから、前より低い声で言った。
「残りの願いを、急いで叶えよう」
「急いで、とは?」
「体の具合が悪化する前に」
それだけ言って、延徳帝は立ち去ろうとした。
「陛下。……雪蘭様のことを、どう思ってらっしゃいますか」
長い沈黙の後、延徳帝は言った。
「わからない」
「そうですか」
「お前は?雪蘭を恨んでいるか」
「命を縮められたことは、確かに悔しいです。でも彼女も、それだけ必死だったのでしょう。愛した人を失いたくなかったのだと思います。その気持ちは……わかる気がします」
延徳帝は答えなかった。ただ、麗華をまっすぐ見た。
麗華はその視線の中に、初めて何かを見た気がしたけれど、それが何であるかは、まだわからなかった。
ただ、何かが確実に変わり始めているという、静かな確信があった。



