「上と話をつけてきた。お前は今日から私の家に住め。それから、任務は常に私と共に行うこと」
牢獄から出る許可が降りたわたしに、佳月は真面目な顔をしてこう言った。
「ええと、つまりわたしはまだ監視対象という……」
「? 何を言っている? 私の女になったのだ。一緒に住まうのは当然だろう」
何を言っているのだろう? この男は。
「なぜ感情が揺らいでいる? まさか、他に男がいるのではあるまいな」
「どういうこと、ですか……?」
「――まあいい。お前が他の男を好いていようと、徹底的に愛し、振り向かせるまでのこと。私の領域から出ることはできないのだからな」
それからというもの、佳月とは毎日、いや、毎秒のように一緒に過ごすようになった。家にいる間もわたしが逃げないように、ずっと領域支配の異能を使い続けている。消耗が激しいのだから任務に弊害が出る可能性があると注意しても、特に問題はないの一点張りだった。
統制局の会議に出るときも、なぜか入ったばかりの下っ端であるわたしを連れて行き、隣に座らせる。他の幹部は皆迷惑そうな顔をしているから、わたしとしては非常に帰りたいのだが、そんなことは許してくれない。
任務の間は、必ず領域内にわたしを入れ、異能で姿を隠したわたしに情報収集を任せてくる。別にわたしがやらずとも、佳月ひとりでできてしまうのだろうが、お前に仕事を覚えてもらう、という言い分で使われている。
だが、不思議と嫌な心地はしない。
羅刹にいた頃のような息苦しさがないのだ。
「ありがとう……」
小さく呟いた感謝の言葉は、佳月に届くことなく消えていった。
「何か言ったか?」
「いいえ」
会議中は無表情、任務中は残忍な顔をしている佳月がわたしに向ける表情は――優しい微笑み。
「雫。お前は私のそばに居ろよ、ずっとな」
「……逃げられなくしているのは、あなたのほうでは……?」
「何か言ったか?」
「……いいえ」
――さっきの言葉は聞かれていたのだろうか?
佳月は後ろ手で隠していた花を差し出してきた。青い小ぶりな花だ。
「こ、これは?」
「雫に。月草という。色は雫を表し、名は私を表す。私たちに似つかわしいと言えるだろう」
不覚にも心が跳ねたのがわかった。きっと気取られただろう。だが、こういうときに限って、からかってはこない。それがまた、ずるいと感じる。
こうして、わたしは少しずつ、この佳月という男に惹かれていくのであった。
【完】
牢獄から出る許可が降りたわたしに、佳月は真面目な顔をしてこう言った。
「ええと、つまりわたしはまだ監視対象という……」
「? 何を言っている? 私の女になったのだ。一緒に住まうのは当然だろう」
何を言っているのだろう? この男は。
「なぜ感情が揺らいでいる? まさか、他に男がいるのではあるまいな」
「どういうこと、ですか……?」
「――まあいい。お前が他の男を好いていようと、徹底的に愛し、振り向かせるまでのこと。私の領域から出ることはできないのだからな」
それからというもの、佳月とは毎日、いや、毎秒のように一緒に過ごすようになった。家にいる間もわたしが逃げないように、ずっと領域支配の異能を使い続けている。消耗が激しいのだから任務に弊害が出る可能性があると注意しても、特に問題はないの一点張りだった。
統制局の会議に出るときも、なぜか入ったばかりの下っ端であるわたしを連れて行き、隣に座らせる。他の幹部は皆迷惑そうな顔をしているから、わたしとしては非常に帰りたいのだが、そんなことは許してくれない。
任務の間は、必ず領域内にわたしを入れ、異能で姿を隠したわたしに情報収集を任せてくる。別にわたしがやらずとも、佳月ひとりでできてしまうのだろうが、お前に仕事を覚えてもらう、という言い分で使われている。
だが、不思議と嫌な心地はしない。
羅刹にいた頃のような息苦しさがないのだ。
「ありがとう……」
小さく呟いた感謝の言葉は、佳月に届くことなく消えていった。
「何か言ったか?」
「いいえ」
会議中は無表情、任務中は残忍な顔をしている佳月がわたしに向ける表情は――優しい微笑み。
「雫。お前は私のそばに居ろよ、ずっとな」
「……逃げられなくしているのは、あなたのほうでは……?」
「何か言ったか?」
「……いいえ」
――さっきの言葉は聞かれていたのだろうか?
佳月は後ろ手で隠していた花を差し出してきた。青い小ぶりな花だ。
「こ、これは?」
「雫に。月草という。色は雫を表し、名は私を表す。私たちに似つかわしいと言えるだろう」
不覚にも心が跳ねたのがわかった。きっと気取られただろう。だが、こういうときに限って、からかってはこない。それがまた、ずるいと感じる。
こうして、わたしは少しずつ、この佳月という男に惹かれていくのであった。
【完】



