月下の華 〜冷酷で最強の執行官は、殺し屋の少女を独占する〜

 囚われの身となり、わたしは鎖につながれて牢獄に入れられた。薄暗い獄中は、どこまでも冷たかった。
 いずれ、羅刹の上司である(おぼろ)さまが直々にわたしを殺しに来るだろう。一番大きな計画を失敗したのだ。鴉羽(からすば)隊が責任を取らなければならないはずだ。
「お前は人を殺すために生まれてきた。その姿を消す異能は、暗殺のためのものだ。殺せ、命令の通りに殺せ。それがお前の唯一の価値なのだ」
 また朧さまの声が頭に響く。ああ、孤児であるわたしに価値をくださった素晴らしいお方。
 ――朧さまに迷惑をかけた。わたしに価値はない。殺されて然るべきだ。
 それなのになぜ、こんなにも怖いのだろうか。
「看守交代だ。ここからは私の領域支配でお前を監視する」
 また気配なく突如として現れた。佳月だ。
「どうせ羅刹がお前を殺しに来るのだろう?」佳月はニヤリと笑った。美しい顔立ちが残忍に歪む。「お前を助けてやろう」
「必要ありません。わたしは死ぬべき人間ですから」
「お前はそうは思っていない。あとで私の提案に感謝するはずだ、必ずな」
 何一つ理解が追いつかない。この男は何を言っているのだろう。
「ところで、帝暗殺計画の説明をする気にはなったか?」
「……」
「そうか。まあ、明日にはお前は口を割っているぞ」
 どこか遠くまで見透かしているような佳月の瞳が不気味だ。
「……わたしは組織の下っ端。何も知りません。そもそも暗殺のできないわたしなど、価値がないのです。早く殺してください」
 情報がないわけではない。だが、任務に失敗し、その上朧さまを裏切るなど、絶対にあってはならない。
「それはできぬな」
「――いずれにせよ、わたしはもうじき殺されます。彼らは必ずわたしを消しに来る。情報が漏れる前に」
 自害はできない。佳月の言う領域支配が実際どの程度の強さかわからないが、説明の通りであれば、心の揺らぎに反応されてしまい、彼の動きの速さではわたしが死ぬ前に行動自体を止められてしまうだろう。舌を噛み切ろうが、頭を壁に打ちつけようが、邪魔が入ってしまう。
「自ら死のうと考えているな。絶対にさせない。羅刹にも殺させない。私は一度守ると決めた相手は必ず守る。それが仕事だからな」
 佳月が淡々と述べる。
 この男はどこか危険だ。掴みどころがない。統制局最強と言われる所以は、戦闘能力だけではないのかもしれない。執念、執着。
 発言どれを取っても、冷酷無慈悲とは程遠いように感じられる。残虐ではあるのだろうが。
 感情の読み取れない顔をしている佳月を盗み見て、薄寒いものを感じる。わたしはとんでもない人間に捕まってしまったのではないか……?
 だが、朧さまに助けを乞うような愚かなことはしない。
 そこまで考えて、グッと心臓が重くなる。任務失敗。その四文字が、わたしを悲しみに突き落とすのだ。
「……何を悲しんでいるのだ」
 ――また感情の揺れを読み取られてしまった。非常に厄介な異能だ。
「なんでもありません」
 佳月がまた眉を顰めた。なぜか、佳月のほうが悲しそうに見えた。