私、草薙佳月は、羅刹の動きを警戒し、帝暗殺の計画を先読みして護衛の任を進み出た。帝殺しだ、歴戦の暗殺者を送り込んでくると予想して構えていたわけだが、化けの皮を剥いだら、出てきたのは幼い少女とは。
しかし、ここ最近増えている刺殺の事件は此奴が――。姿を消す異能なら、顔も背格好も割れることがない。羅刹は便利な手駒を拾ったことだ。
体術の癖からして、羅刹内の鴉羽隊と呼ばれる暗殺集団のひとりだろう。
異能を解いて姿を現した少女を連れ出して帝から距離を取らせる。用意していた縄で捕縛し、膝をつかせた。本来ならば、即処分のはずだが、か弱い少女となると、情報を聞き出せる可能性もある。そう思ったのだが……。
「私はその目を知っている。過去幾度となく出会ってきた。――生きることを諦めた人間の目だ」
異能統制局に入る前にいた組織で何度も見たことがある。ゴミだめを生きることも死ぬこともできずに、生ける屍のように彷徨っているような人間たち。
これだけ幼い少女がこの目をするに至るとは、一体どのような半生を送って来たのだろうか。
私の問いかけには答えず、少女は虚ろな瞳をゆらりとこちらに向けた。
「どうしてためらった? その剣さばき、すでに何人も殺しているだろう?」
情報を聞き出す以前に、どうしても気になってしまった。この少女の素性が。何がこの子にこんな顔をさせているのか。
――らしくない。
仕事人だとか非情な処刑人だとか二つ名をつけられるくらい、仕事にのみ忠実で人間味のない私が、なぜ。
少女の虚空を見つめる瞳が、悲しげに歪んだ。
「わたしはもう! 誰も殺したくないのです! でも、人を殺すしか能のないわたしは、殺すことでしか生きていけない」
心臓がグッと掴まれた心地がした。
――いや、私は何をしている? 罪人の言葉を信じるなかれ。
「私の異能は、領域支配と言ってだな。六間以内の定めた範囲内における『異常事態』を検知することができる。殺意や害意はもちろん、危険物の察知、そして――感情の揺れに反応するのだ。お前が刀を構える直前まで、私はお前に気づくことができなかった。だが、お前がためらう瞬間、心拍が跳ね、それを領域支配が異常として検知したのだ」
要らぬ話をしながら、ぐるぐると辺りを回る。ちなみに、六間以内というのは嘘だ。
私はすでにこのとき、この少女を囲う未来が見えていた。しかし、そのためには、彼女の直属の上司であろう鴉羽朧を誘き出さねばならない。羅刹の暗黙の了解である、連帯責任に照らして考えれば、正確な情報を与えなければ、朧がやってくるだろう。
「相手が帝だからか? これまで殺した人間だって、同じ人間だ。価値は等しいとは言わない。だが、帝の前でのみ躊躇し、殺しを諦めるのは、虫が良すぎるというもの」
「……」
静かに少女に近づき、剣先を差し出すように目の前に突きつける。
「罪滅ぼしをしろ。情報を吐け。羅刹の目的はなんだ? 帝殺しの次は何をする?」
「……殺してください」
「そうか。語らぬか。いいだろう、語るまで逃さぬだけだ」
何故私は、この少女を救いたいと願ってしまっているのだろうか。悲しき運命の小さな少女の瞳には、どこか見覚えがあった。
しかし、ここ最近増えている刺殺の事件は此奴が――。姿を消す異能なら、顔も背格好も割れることがない。羅刹は便利な手駒を拾ったことだ。
体術の癖からして、羅刹内の鴉羽隊と呼ばれる暗殺集団のひとりだろう。
異能を解いて姿を現した少女を連れ出して帝から距離を取らせる。用意していた縄で捕縛し、膝をつかせた。本来ならば、即処分のはずだが、か弱い少女となると、情報を聞き出せる可能性もある。そう思ったのだが……。
「私はその目を知っている。過去幾度となく出会ってきた。――生きることを諦めた人間の目だ」
異能統制局に入る前にいた組織で何度も見たことがある。ゴミだめを生きることも死ぬこともできずに、生ける屍のように彷徨っているような人間たち。
これだけ幼い少女がこの目をするに至るとは、一体どのような半生を送って来たのだろうか。
私の問いかけには答えず、少女は虚ろな瞳をゆらりとこちらに向けた。
「どうしてためらった? その剣さばき、すでに何人も殺しているだろう?」
情報を聞き出す以前に、どうしても気になってしまった。この少女の素性が。何がこの子にこんな顔をさせているのか。
――らしくない。
仕事人だとか非情な処刑人だとか二つ名をつけられるくらい、仕事にのみ忠実で人間味のない私が、なぜ。
少女の虚空を見つめる瞳が、悲しげに歪んだ。
「わたしはもう! 誰も殺したくないのです! でも、人を殺すしか能のないわたしは、殺すことでしか生きていけない」
心臓がグッと掴まれた心地がした。
――いや、私は何をしている? 罪人の言葉を信じるなかれ。
「私の異能は、領域支配と言ってだな。六間以内の定めた範囲内における『異常事態』を検知することができる。殺意や害意はもちろん、危険物の察知、そして――感情の揺れに反応するのだ。お前が刀を構える直前まで、私はお前に気づくことができなかった。だが、お前がためらう瞬間、心拍が跳ね、それを領域支配が異常として検知したのだ」
要らぬ話をしながら、ぐるぐると辺りを回る。ちなみに、六間以内というのは嘘だ。
私はすでにこのとき、この少女を囲う未来が見えていた。しかし、そのためには、彼女の直属の上司であろう鴉羽朧を誘き出さねばならない。羅刹の暗黙の了解である、連帯責任に照らして考えれば、正確な情報を与えなければ、朧がやってくるだろう。
「相手が帝だからか? これまで殺した人間だって、同じ人間だ。価値は等しいとは言わない。だが、帝の前でのみ躊躇し、殺しを諦めるのは、虫が良すぎるというもの」
「……」
静かに少女に近づき、剣先を差し出すように目の前に突きつける。
「罪滅ぼしをしろ。情報を吐け。羅刹の目的はなんだ? 帝殺しの次は何をする?」
「……殺してください」
「そうか。語らぬか。いいだろう、語るまで逃さぬだけだ」
何故私は、この少女を救いたいと願ってしまっているのだろうか。悲しき運命の小さな少女の瞳には、どこか見覚えがあった。



