不眠の氷狼皇帝は、身代わり妃を手放せない

窓から差し込む朝陽が、豪華な天蓋付き寝台を照らす。
茉莉花が目を覚ますと、そこには信じられない光景が広がっていた。

「……おはよう、私の救い」

耳元で、鼓膜を甘く震わせるような低音が響く。
驚いて飛び起きようとした茉莉花だったが、腰に回された太い腕に阻まれ、身動きが取れない。

「へ、陛下……!?起きていらしたんですか?」

目の前には、昨夜の刺すような殺気はどこへやら、潤んだ瞳で茉莉花を見つめる李信がいた。
隈の消えたその顔は、恐ろしいほど整っており、直視できないほどの輝きを放っている。

「……ああ。人生で初めて、泥のように深く眠れた。すべてはお前のおかげだ」

李信は茉莉花の首筋に顔を埋め、深く、深くその香りを吸い込んだ。
まるで、喉が渇いた獣が水を求めるような、切実で危うい仕草。

「ひゃっ、陛下、くすぐったいです!それに、私は身代わりの……」
「身代わり?誰の、何のことだ」

李信の瞳が、一瞬だけかつての鋭さを取り戻す。

「お前を差し出した家がどう思おうと、関係ない。昨夜、私を救ったのはお前だ。……茉莉花。お前がいない世界に、私はもう戻れない」

……え、重い。たった一日過ごしただけで、愛が重すぎる気がする……!

茉莉花の困惑をよそに、李信はそのまま彼女を抱き上げ、寝室の呼び鈴を鳴らした。
入ってきた侍女たちは、寝台の上で皇帝に抱きかかえられた茉莉花を見て、持っていた盆を落としそうになる。

「今日から、茉莉花を正妃として扱う。彼女が望むものはすべて揃えろ。一針の狂いもない服、大陸中から集めた最高級の茶葉……それから」

李信は茉莉花の指先に、自身の唇を寄せた。

「男の護衛はこの部屋の外に倍に配置しろ。……私以外の男が、茉莉花を視界に入れることを許さん」
「……は、はい!かしこまりました!」

侍女たちが慌てて退散していく中、茉莉花は李信の胸板を押し返そうとするが、びくともしない。

「陛下、私のような落ちこぼれが正妃なんて無理です!姉様が知ったら大変なことに……」
「姉?……ああ、お前を道具のように扱った女か」

李信の口角が、冷ややかに上がる。その瞬間だけは『氷狼』の顔だった。

「安心しろ。お前を苦しめた連中には、相応の報いを与える。だが今は……そんなことより、私の側にいろ」

李信は茉莉花を膝の上に乗せたまま、大きな手で彼女の背中をなぞり始めた。
まるで、自分だけの宝物を慈しむような、独占欲の塊のような手つきだ。

「公務の間も、私の隣で茶を淹れていろ。離れることは許さん」
「……あの、お仕事の邪魔では?」
「お前がいないと、また頭が割れるように痛むのだ。……茉莉花、私を見捨てないと言ってくれ」

昨夜の冷酷な態度はどこへ行ったのか。
捨てられた仔犬のような、あるいは獲物を追い詰めた狼のような瞳で、李信は茉莉花を凝視する。

この人……格好いいのに、中身が極端すぎる!

茉莉花は、あまりの急展開に眩暈を覚えながらも、自分を必要としてくれる李信の体温に、絆されていくのを感じていた。
だが、この『異例の寵愛』を快く思わない者たちが、後宮にはまだ大勢いた。