数年後。
後宮は、世界で唯一の『猫の楽園』として知られるようになった。
豪華な椅子で丸くなる猫たち。
それをデレデレな顔で見守る皇帝。
そして、そんな夫に「陛下、鼻の下が伸びていますよ」と苦笑しながらお茶を淹れる、元・侍女の皇后の姿。
庭園は、かつての殺伐とした空気を微塵も残していない。
芝生は柔らかく、花の香が淡く、日向の熱が猫の背を温める。
そこに一人の小さな少年が座っていた。
「あー、うー!」
まだ言葉もたどたどしいその子は、この国の第一皇子・陽向。
そして、その周りを円陣のように取り囲んでいるのは、元・捨て猫のおはぎを筆頭とした、歴戦の猫たちだ。
陽向が立ち上がってよろければ、おはぎがさっと体の下に潜り込み、背中をふかふかの盾にする。
陽向が寂しくなって泣きそうになれば、三毛猫のシロが頬をペロペロ舐めてあやす。
「……ふふ、本当に立派な教育係ですね」
その光景を縁側から眺めながら、皇后となった小鈴がクスクスと笑った。
隣では、相変わらず冷徹な美貌……を維持しているはずの皇帝・李白が、愛おしそうに目を細めている。
「うむ。おはぎたちは陽向を『自分たちの弟』だと思っているようだな。……おい、見ろ小鈴。今、陽向がおはぎの尻尾を掴もうとしたが、おはぎは怒るどころか、わざと掴みやすいように振ってやっているぞ。……なんて健気なんだ……っ」
李白は感動のあまり、ハンカチを噛み締めながらプルプルと震えている。
「陛下、また鼻の下が伸びていますよ。威厳はどうしたのですか」
「そんなものは猫の餌にでもしてしまえ。それより小鈴、陽向を見てみろ。あの子、今おはぎに向かって『ぱぱ』と言わなかったか?」
「いえ、陛下。あれは『にゃにゃ』と言ったのです。たぶん、猫語を先に覚えるつもりですよ、あの子」
陽向がおはぎに抱きついたまま、満足そうにスヤスヤ眠り始める。
猫たちもそれを見て、少年を温めるように団子状になっていった。
ゴロゴロという音が、庭園にゆっくり広がる。
「……小鈴」
李白が、そっと小鈴の手を握った。
「かつて朕は、この後宮を空っぽで虚しい場所だと思っていた。だが、お前が猫を連れてきて、猫がお前を連れてきてくれた。……今のこの景色こそが、朕が守りたかった本当の国のかたちだ」
「はい、陛下。……でも、夜におはぎたちを独占して『でちゅねー』って甘やかすのは、ほどほどにしてくださいね?陽向がヤキモチを焼きますから」
「うぐっ……それは善処しよう」
冷徹(自称)な皇帝と、猫に好かれすぎた皇后。
二人の愛の結晶である小さな皇子は、猫たちのゴロゴロという安らかな調べを子守唄に、今日も幸せな夢を見る。
後宮のどこかで猫が鳴けば、必ず誰かが優しく微笑む。
ここは、世界で一番温かい、猫と人とが共に歩む楽園なのだから。
後宮は、世界で唯一の『猫の楽園』として知られるようになった。
豪華な椅子で丸くなる猫たち。
それをデレデレな顔で見守る皇帝。
そして、そんな夫に「陛下、鼻の下が伸びていますよ」と苦笑しながらお茶を淹れる、元・侍女の皇后の姿。
庭園は、かつての殺伐とした空気を微塵も残していない。
芝生は柔らかく、花の香が淡く、日向の熱が猫の背を温める。
そこに一人の小さな少年が座っていた。
「あー、うー!」
まだ言葉もたどたどしいその子は、この国の第一皇子・陽向。
そして、その周りを円陣のように取り囲んでいるのは、元・捨て猫のおはぎを筆頭とした、歴戦の猫たちだ。
陽向が立ち上がってよろければ、おはぎがさっと体の下に潜り込み、背中をふかふかの盾にする。
陽向が寂しくなって泣きそうになれば、三毛猫のシロが頬をペロペロ舐めてあやす。
「……ふふ、本当に立派な教育係ですね」
その光景を縁側から眺めながら、皇后となった小鈴がクスクスと笑った。
隣では、相変わらず冷徹な美貌……を維持しているはずの皇帝・李白が、愛おしそうに目を細めている。
「うむ。おはぎたちは陽向を『自分たちの弟』だと思っているようだな。……おい、見ろ小鈴。今、陽向がおはぎの尻尾を掴もうとしたが、おはぎは怒るどころか、わざと掴みやすいように振ってやっているぞ。……なんて健気なんだ……っ」
李白は感動のあまり、ハンカチを噛み締めながらプルプルと震えている。
「陛下、また鼻の下が伸びていますよ。威厳はどうしたのですか」
「そんなものは猫の餌にでもしてしまえ。それより小鈴、陽向を見てみろ。あの子、今おはぎに向かって『ぱぱ』と言わなかったか?」
「いえ、陛下。あれは『にゃにゃ』と言ったのです。たぶん、猫語を先に覚えるつもりですよ、あの子」
陽向がおはぎに抱きついたまま、満足そうにスヤスヤ眠り始める。
猫たちもそれを見て、少年を温めるように団子状になっていった。
ゴロゴロという音が、庭園にゆっくり広がる。
「……小鈴」
李白が、そっと小鈴の手を握った。
「かつて朕は、この後宮を空っぽで虚しい場所だと思っていた。だが、お前が猫を連れてきて、猫がお前を連れてきてくれた。……今のこの景色こそが、朕が守りたかった本当の国のかたちだ」
「はい、陛下。……でも、夜におはぎたちを独占して『でちゅねー』って甘やかすのは、ほどほどにしてくださいね?陽向がヤキモチを焼きますから」
「うぐっ……それは善処しよう」
冷徹(自称)な皇帝と、猫に好かれすぎた皇后。
二人の愛の結晶である小さな皇子は、猫たちのゴロゴロという安らかな調べを子守唄に、今日も幸せな夢を見る。
後宮のどこかで猫が鳴けば、必ず誰かが優しく微笑む。
ここは、世界で一番温かい、猫と人とが共に歩む楽園なのだから。


