無華の花嫁

「これ、洗いなさいよ!お湯なんて使ったら許しませんからね!」

継母の鋭い声で、現実に引き戻される。
畳の上へ投げつけられたのは、妹——百合の華やかな暮らしを象徴する、色とりどりの高価な着物。
絹の艶が、私の指先には眩しすぎた。

「ぷっ。『無華』のあんたには、その見窄らしい継ぎだらけの着物がお似合いよ」

笑い声が、耳の奥に刺さる。

『無華』
この国で、加護を持たない者につけられる烙印。
この国では、誰もが持って生まれるはずの『華の加護』——その『華』が呼び出す『異能』。
私は、それを持つことが叶わなかった。

『華の加護』を持たないのに、よりによって花の名——
『すみれ』と名付けられるなんて、なんと滑稽な皮肉だろう。
誰も私の名を呼ばないのだから、今さらどうでもいいのかもしれない。

この国では、人は皆、生まれたときに一度だけ——『華見』と呼ばれる厳かな儀式を受ける。

額に清らかな清水を垂らし、手の平に一輪の花を結ばせる。
その花の『形』が、その人に宿る『華』の性質を。
花弁の『色』が、その力の強さや属性、そして格式を、示しているのだという。
儀式の日、家々は香を焚き、祝いの声で満ちるらしい。私には、遠い話だ。

牡丹や菊は武家に多く、桜や藤は芸や学に秀でた者に好んで現れる。
薔薇は希少で、その中でも黒を帯びた薔薇は皇族にしか現れない——
そんな噂を、私は隅で聞いたことがある。

そして私は、その『華見』の儀式すら受ける資格がない。
『無華』の証である、左右で色が違うこげ茶と紫の瞳。
この忌まわしい瞳を持った赤子の私を、初めて抱いた母がどんな顔をしていたのか。
今でも、怖くて想像することができない。

『無華』には、家を継ぐ資格も、華やかな縁談の席も、回ってくることはない。
ただ口減らしのための厄介者として家の隅に追いやられ、息を潜めて生きるのが常だ——
と、陰で使用人たちがひそひそと囁くのを、私は何度も聞いた。
聞こえないふりを覚えるのも、上手くなった。

実の母は、武家に多い牡丹の『華』を持っていたらしい。
継母と妹の百合は、同じ『赤薔薇』の『華』だと、父は誰に対しても誇らしげに話していた。
その誇らしさの中に、私の居場所は最初からなかった。

生まれたときから、何一つ咲かすことができない。
手の平にも、胸の内にも——希望という名の花を。
それでも生きている限り、枯れないふりだけは、してしまうのだ。

咲けない花でも、踏まれながら息をする。