「ごほっ、ごほっ」
冷たい水を浴びせられたまま、どうにか蔵へ戻ってきたものの、濡れた髪を拭う余裕すらなかった。
指先はかじかみ、思うように動かない。
帯を解くのにも時間がかかり、ようやくぐしょ濡れの着物を脱ぎ捨てて、薄い寝間着に着替える。
けれど、そんなもので寒さが和らぐはずもなかった。
少しでも体温を逃がすまいと、急いで布団へ潜り込む。
布団は冷え切っていて、身体を包むというより、冷たさを押しつけてくるだけだった。
暖房など何もない蔵の中では、震えは止まらない。
むしろ、布団に入ったことで寒さがよりはっきりと意識され、骨の奥から、がたがたと揺すられるような悪寒が押し寄せてきた。
歯の根が合わず、かちかちと小さく鳴る。
肩が震え、その震えが胸へ、背へ、腹へと伝わっていく。
やがて、震えに追い立てられるように咳が出始めた。
「ごほっ……ごほ、ごほっ」
息を吸うたび、喉がひりつく。肺の奥が焼けるように痛い。
咳を堪えようとすればするほど、体の奥から無理やり突き上げられてきて、細い身体を激しく揺らした。
胸を押さえても意味はなく、喉の奥は乾ききって、掠れた呼吸音だけが耳のそばで響く。
もし、この状況で風邪などひいたら——
継母から、どんな罵倒と懲罰が待っているか。
それを思うだけで身が竦み、寒さとは別の震えが背筋を這い上がった。
『怠け者』『穢れ』『役立たず』——
言葉だけで済むはずがない。
寝込んだことを責められ、迷惑をかけたと殴られ、使えないなら食事は不要だと言われるかもしれない。
ただでさえ厄介者なのに、病など得たら、今度こそ本当に見捨てられる。
朦朧とする頭を抱えながら、せめて喉の掠れと渇きだけでも癒したくて、私はふらつきながら井戸へ向かった。
蔵の扉を開けた瞬間、外気が刃のように頬を切る。
頭に、肩に、そして素足に落ちる雪が、容赦なく体温を奪っていった。
夜の気配を含んだ空は鈍い灰色で、しんしんと降る雪だけが、静かに世界を埋めている。
こんなに静かなのに、寒さだけが異様に鋭かった。
井戸へ辿り着くまでの数歩さえ、ひどく遠い。
足裏の感覚はもう曖昧で、地面を踏んでいるのか、浮いているのかもわからない。
それでも、やっとの思いで桶を引き上げ、氷のように冷たい水を柄杓ですくって喉を潤した。
冷たすぎる水が、焼けた喉を通って落ちていく。
痛いのに、少しだけ楽になる。
冷たい水を浴びせられたまま、どうにか蔵へ戻ってきたものの、濡れた髪を拭う余裕すらなかった。
指先はかじかみ、思うように動かない。
帯を解くのにも時間がかかり、ようやくぐしょ濡れの着物を脱ぎ捨てて、薄い寝間着に着替える。
けれど、そんなもので寒さが和らぐはずもなかった。
少しでも体温を逃がすまいと、急いで布団へ潜り込む。
布団は冷え切っていて、身体を包むというより、冷たさを押しつけてくるだけだった。
暖房など何もない蔵の中では、震えは止まらない。
むしろ、布団に入ったことで寒さがよりはっきりと意識され、骨の奥から、がたがたと揺すられるような悪寒が押し寄せてきた。
歯の根が合わず、かちかちと小さく鳴る。
肩が震え、その震えが胸へ、背へ、腹へと伝わっていく。
やがて、震えに追い立てられるように咳が出始めた。
「ごほっ……ごほ、ごほっ」
息を吸うたび、喉がひりつく。肺の奥が焼けるように痛い。
咳を堪えようとすればするほど、体の奥から無理やり突き上げられてきて、細い身体を激しく揺らした。
胸を押さえても意味はなく、喉の奥は乾ききって、掠れた呼吸音だけが耳のそばで響く。
もし、この状況で風邪などひいたら——
継母から、どんな罵倒と懲罰が待っているか。
それを思うだけで身が竦み、寒さとは別の震えが背筋を這い上がった。
『怠け者』『穢れ』『役立たず』——
言葉だけで済むはずがない。
寝込んだことを責められ、迷惑をかけたと殴られ、使えないなら食事は不要だと言われるかもしれない。
ただでさえ厄介者なのに、病など得たら、今度こそ本当に見捨てられる。
朦朧とする頭を抱えながら、せめて喉の掠れと渇きだけでも癒したくて、私はふらつきながら井戸へ向かった。
蔵の扉を開けた瞬間、外気が刃のように頬を切る。
頭に、肩に、そして素足に落ちる雪が、容赦なく体温を奪っていった。
夜の気配を含んだ空は鈍い灰色で、しんしんと降る雪だけが、静かに世界を埋めている。
こんなに静かなのに、寒さだけが異様に鋭かった。
井戸へ辿り着くまでの数歩さえ、ひどく遠い。
足裏の感覚はもう曖昧で、地面を踏んでいるのか、浮いているのかもわからない。
それでも、やっとの思いで桶を引き上げ、氷のように冷たい水を柄杓ですくって喉を潤した。
冷たすぎる水が、焼けた喉を通って落ちていく。
痛いのに、少しだけ楽になる。



