清めの巫女は最強人柱に狂愛される



光敏と日桜里はお召しを受け、帝城に参じていた。謁見の間にぬかずき、玉座に対して最敬礼の意を表す。玉座の隣には、剣を佩いた男がひとり控えており、おそらく帝付きの護衛なのだろうと、日桜里は理解した。
日桜里はぬかずきながらも、こうべを垂れる前にちらりと見た、傍付きの剣士の見目に心を奪われていた。
(なんて美しい方なのかしら……。お父さまが買って下さる西洋の物語に出てくる殿方のようなお顔立ちじゃない……。体躯も均整が取れていて、きっと素晴らしい剣士さまなのだわ……。陛下のお隣に控えておられるということは、きっと陛下のお気に入りでいらっしゃるのね……)
であれば、相当な実力の持ち主だろう。帝と婚姻を結ぶには、久門家は爵位が及ばないが、実績で婚姻が結べる帝の手足同士であれば、彼ほど日桜里の婿として相応しい相手はいないのではないだろうか。
(お父さまに、この方のことを伺ってみよう……。きっとお父さまなら、私の悪いようにはなさらないわ……)
日桜里が期待に胸を膨らませてる一方、光敏はこうべを垂れたまま、帝の言葉を一言一句聞き漏らすまいと、神経を鋭敏にしていて、この場で帝以外のことなどどうでもいいと思っていた。
(陛下は、何用で僕たちをお召しになられたのだ……。なにか失敗をしたのだとしたら、僕の祓い師としての地位が失墜してしまう……)
緊張の頂点にあった光敏の手が震え始めた頃、帝が厳かに口を開いた。
「久門光敏、そして日桜里。面(おもて)を上げよ。まずは日頃の職務遂行、褒めてつかわす。今後も重々励むように」
光敏はまずもって最初に帝から直々に賛辞があったことに、胸がいっぱいになった。
「お褒めにあずかり、光栄に存じます」
「陛下の為に、今後も励みます」
光敏と日桜里は、深々と頭を下げる。日桜里の脳は、帝の言葉を聞き漏らさないようにしながらも、剣士の様子を窺ってそわそわとしていた。
一方の光敏は、帝直々の賛辞を賜り、高揚していた。他の祓い師で帝の拝謁が叶ったものは、数少ない。周囲の祓い師より頭ひとつ抜きん出たのだと、実感した。
「ところで、先日引き渡された娘だが」
二人は直ぐにそれが雪乃のことだと理解する。この場で彼女のことが話題に上るとは思っておらず、二人は内心冷や汗を流した。
「あの『穢れ』が、なにか陛下に不都合を働きましたでしょうか」
自分の躍進の足枷となりそうな義妹のことを、忌々しく思う。光敏は舌打ちしたい気持ちを、ぐっと堪えた。日桜里も内心は同様である。
「いや。ちょうど良い具合であった。だが、お前たちはさぞかし苦労してくれたのだろう(・・・・・・・・・・・・・・・)と思ってな。それ故、手放すのが惜しかったのではないかと、案じているのだ」
光敏は帝の言葉に歓喜した。自分たちのしてきたことを褒められ、あまつさえ帝に気遣ってもらえるなど!
しかし、忠信な手足は、帝の憂いを晴らさなければならない。
「お言葉、まことに感謝いたします。ですが、陛下、ご心配には及びません。そもそも祓いの一族に、穢れはあってはならぬもの。あのような醜い穢れは、我が久門に相応しくありませんでした」
「爪の先ほども、役に立たない義姉でした。兄を誘惑する義姉がいなくなって、我が家には平和が訪れております」
ふたりの返答に、帝は満足そうに頷く。
「そうであったか。穢れはこの国を悪しき方向に傾かせる。そなたたちはその力で私の手足となって働くもの。私のために、今後も尽力するように」
帝の激励に、二人は、御意、と厳かに応えた。