じゃりっと音をさせて、金子の入った巾着がテーブルの上に置かれる。帝城から戻った父親は、やっと面倒ごとの荷を降ろした、と言わんばかりに、その身をソファにどさっと預けた。ソファでくつろいでいた家族の視線が一斉にその巾着に集まり、喜色に満ちた微笑えみを浮かべた義母が、父親に話しかける。
「あなた、その金子は?」
巾着の中身について、父親は何も言っていない。だが、金の音に敏感な義母は、贅沢好きの耳ざとさだった。義母の言葉に、日桜里も目を輝かせる。
「雪乃の代金だ。あんな穢れた娘でも、欲しい輩は金を出してくれる。そういう約束だったとはいえ、あの方もおっしゃることが正気の沙汰ではないと思ったのだろうな、ずいぶんと弾んでもらえた。これだけあれば、雪乃の代わりの清め水などいくらでも買える。お前も光敏のことを心配しなくて良くなるから、これからは心穏やかに過ごしてほしい」
父親の言葉に、義母は満足そうに頷いた。光敏は巾着を見つめて、ほう、と感心したように片眉を上げる。
「そうですわね。光敏は帝都の祓い師の中で一、二を争う力を持ちますから、いずれ陛下のお声も賜ることが出来るでしょう。そうすればこの家は安泰ですし、私は光敏の母として、確固たる地位を築けますわ。光敏も、厄介払いが出来て良かったわね。あんな女の機嫌を取らなくてはいけなかったのは、さぞかし苦痛だったでしょう」
光敏が口を開く。
「そうですね。あんなに穢れを纏っていながら、その命ごと祓わずに生かしてやった僕の慈悲を、みじんも分かっていなさそうな愚鈍さには、心底あきれ果てました。あんなに醜いなりで、よくもまあ僕のことを兄と呼んだものです」
「日桜里も優秀だから、よい殿方とご縁が結べるだろう。まったく、あんな娘ひとりでこんなに明るい未来が約束されるとは思わなかった。全ては私の行いの良さ故だな」
自画自賛する父親に、義母も頷く。
「わたくし、あなたと結婚できて、よかったですわ。末永く、あなたについて行きます」
「任せなさい。雪乃の件は、あちらに十分な見返りを約束させた。我が家は安泰だ」
ふふふ、という欲にまみれた笑みは、窓の外の静寂に飲み込まれていった。



