終わらない今日を、君と選ぶ

目覚ましが鳴る前に、望月琉惺(もちづきりゅうせい)は目を開けていた。
薄い光。
同じ天井。

スマホを見る。

同じ日付。

「……」

画面を伏せる前に、通知が来る。

【起きてる?】

すぐ返す。

【起きてる】

間髪入れずに通話がかかってくる。

「……おはよう」

蒼依の声。

「……おはよう」

「覚えてるか」

「……全部」

短い沈黙。

「今日も、だな」

「……うん」

通話を切る。
制服に袖を通す。
白いシャツ、ブレザー。
昨日と同じ。

家を出る。
同じ空気。
同じ音。

校門の前。
蒼依が、同じ場所に立っている。

「……な」

蒼依が言う。

「やっぱり」

「……うん」

二人で校舎に入る。

廊下のざわめき。
笑い声。

「……昨日と」

蒼依が小さく言う。

「同じ」

教室に入る。

「おはよー」

「今日さー」

クラスメイトの声が、重なる。

「……」

琉惺は、何も言わずに席に着いた。

「……なあ」

蒼依が小声で言う。

「この会話」

「……昨日と、同じ順番」

「だよな」

教師が入ってくる。

「じゃあ、始めるぞ」

板書。
咳払い。
言い間違い。

蒼依が、ぽつりと呟く。

「……録音だな」

「……再生」

「中身、ない」

琉惺は、前の席の生徒に声をかけた。

「なあ」

「ん?」

「今日の放課後、何する?」

一瞬、間が空く。

「……部活」

昨日と同じ返事。

「それ、昨日も言った」

「……部活」

目は合わない。

「……蒼依」

「見た」

「……話、通じてない」

蒼依が、今度は教師に声をかける。

「先生」

「なんだ」

「ここ、もう一回説明してもらっていいですか」

教師は一瞬止まり、黒板に向き直る。

「ここはな――」

昨日と同じ説明。

質問は、聞かれていない。

「……俺たち」

蒼依が言う。

「見えてないのかもな」

「……世界から」

休み時間。

騒がしいはずなのに、二人の周りだけ音が薄い。

「……静かだな」

蒼依が言う。

「……うるさいはずなのに」

「俺たち以外」

「……背景音」

琉惺は、指先を握る。

「……本当に」

「ん?」

「世界に、俺たちしかいないみたい」

蒼依は否定しなかった。

「……更新されてないんだ」

「他は?」

「昨日のまま」

蒼依が、クラスメイトの名前を呼ぶ。

「おい」

「なに?」

返事はある。

「こっち見ろ」

「……なに?」

視線は、合わない。

「……名前」

もう一度呼ぶ。

同じ返事。

同じ声。

「……人、だよな」

蒼依が言う。

「……形は」

「中は?」

「……空っぽ」

昼休み。

弁当を広げる。

「……昨日と」

「同じ中身」

「食べる?」

「……うん」

味も同じ。

「……なあ」

蒼依が言う。

「もう、無理に関わるのやめよう」

「……いいの?」

「俺たちだけで、いい」

琉惺は、少し考えてから頷いた。

「……うん」

午後の授業。

二人は、ほとんど喋らなかった。

喋らなくても、困らない。

「……なあ」

放課後、蒼依が言う。

「追ってこないな」

「……誰も」

振り返っても、教室はそのまま。

「……本当に」

琉惺が言う。

「二人きりだ」

蒼依は、琉惺を見る。

「……怖いか」

「……少し」

「でも」

「……蒼依がいる」

蒼依は、少しだけ間を置いて言った。

「俺も」

校舎を出る。

夕方の光。

「……世界」

琉惺が言う。

「いらなくなってきた」

「……それ、危ないな」

「……分かってる」

蒼依は、琉惺の腕を掴んだ。

「二人で戻るぞ」

「……どこに」

「理由のある場所に」

夕暮れの中、二人の影が重なる。

背後で、世界は何事もなかったように、昨日を繰り返していた。