「あの紙って、山吹くんが無理に先生に貰ったものですけど、これをするためですか?」
「…そうだよ。だって浅葱は誰かに後ろを押されないとなかなか自分から行かない奴だから、俺が行くしかないんだ」
やっぱり、私はこういう優しい山吹くんが大好きなんだ。でもこの恋は実らないよね……。
「それに……。紙を渡しておけば、俺ら二人っきりになれるじゃん?」
え、山吹くん…、そんな甘い言葉を、耳を赤くしながら言うとかどんだけ可愛いの⁉ 待って、マジで惚れ直すし、今すぐに抱きしめたい。
「ねぇ、怖いんだけど…」
睨まれながら言うもんだから、慌てて誤解を解こうとするも無理そう。
「…もういいからどっか遊びに行くぞ!」
黒い背負うバッグを豪快に回して肩に当てるなり、すぐに教室を出ようとしていて、私も急いで後を追った。
「ま、待ってください!」
玄関までの道中、私たちは会話をすることはなかったが、靴を履き終えると山吹くんは照れながらも
「ど、どこ行く?」と首を傾げる。
つい、顔がニヤニヤしてしまい
「では、水族館に行きますか?」
「それいいね!」
後ろ歩きではしゃいでいる山吹くんの周りに注意を向けながらも、私はノリで手を差し伸べてみた。しかし、それがノリと気づいていない様子で私の手を握ってくれた。
「…あ、え⁉」
「……? 手繋ぎたかったんだろ?」
「そ、そうなんですけど…その」
「? じゃあ行こう!」
手を引っ張られ、抱いていた困惑がすぐさま周りの空気に消えていくように感じた。
「ネットではこの水族館おすすめらしいですよ。行ってみます?」
「うん!」
建物の外観にはたくさんの魚の模型が設置されており、ネットの写真と照らし合わせてすぐに気が付いた。入り口で受け付けをして、右手側から暗闇に身が溶け込んでいく。
「…韓紅‼ 見て見て!」
「綺麗なクラゲですね」
プカプカと波のない水の中を優雅に浮かぶクラゲは群れをなして大きな水槽を駆け回り、去っていく。その姿を見ていると現実から離れて辛いことが吹き飛んでいくよう。
目をキラキラとさせて、まるで好奇心を隠せない子どもみたい。そんな山吹くんを私の視線は気づかないうちに向いていた。
そんなことに気づかず熱中していた山吹くんの前にはたくさんの魚がやってきて注目の的になっていた。
「見て見て韓紅! めっちゃ可愛い‼」
「そうですね。可愛すぎます」
水槽の中で戯れる魚も可愛いけど、山吹くんもそれに劣らず可愛らしく、愛おしい。
「今日、イルカショーがあるみたいなんですけど行きますか?」
「行く‼」
入り口で貰ったパンフレットによればショーまで時間があり、それまで大きなサメの迫力さや小さなペンギンによる小股で歩く姿によって可愛さを堪能でき、しかも亀のエサやりの体験ができるらしく、山吹くんは目を輝かせて
「やってもいい??」と可愛い眼で私を直視してくる。
その愛おしさに耐え切れず、すぐさま縦に首を振る。
「見て見て韓紅! めっちゃムシャムシャって食べてる‼ 可愛すぎる!」
周りの子どもたちよりも楽しんでるようにも思える…。でも、楽しんでくれてるならここを選んで正解だったかもな。
保護者感覚で見ていると、あっという間に手持ちのエサが無くなって、山吹くんの顔も落ち込んでしまった。
「もうすぐイルカショーだし行こう……!」
「…うん!」
時間も余裕を持って着けるくらいで、向かっている最中にカニやアザラシなどの動物とも触れ合うことができるらしく、たまに触っては寂しくなってを繰り返す山吹くん。表情がたくさん変わって私も楽しめて嬉しい。
会場に着くなり、無料のカッパをスタッフから配布され、全体が見える席を隣同士で取りカッパを着る。
『それでは、これからイルカショーを始めます! 前に見えますイルカさんたち。右から……』
アナウンスが会場中に響き渡ってイルカの名前を呼んでいく。その名が響いた瞬間、水面が裂けるようにイルカが跳躍した。
「すごい‼ めっちゃすごい!」
「だね!」
水しぶきと一緒に飛んでくる声が歓声に混じって微かに聞こえる。
イルカたちは見事な踊りと美声で人々を魅了する。人を運んだり高い場所に吊るされた輪をくぐり抜けたりと私たちの視線を奪う。
「もう終わっちゃった……」
「…そうだね」
フードから頭を出して振り返ると、少しの水が山吹くんの服にかかって透けてしまっている。条件反射のように鞄からタオルと上着を取り出して山吹くんの胸元を隠す。
「……ぬ、濡れてるよ」
「おう、悪いな。ありがと!」
なんでこんなに無防備なの⁉ 私がいるっていうのに、襲いたい……。
乱れた思いを心の箱に無理やり押し入れ、どうにかして心を落ち着かせる。
「じゃあ行く?」
「うん! 最後にお土産見に行ってもいい?」
「いいですよ。ちょうど私も見てみたかったんで」
お互いに濡れた髪を拭ったタオルを袋の中にしまい、鞄に押し込んだ。
イルカショーの会場と土産屋は近くて、目と鼻の先ぐらいの距離だった。
「どれにしようかな」
壁にかかった小さなぬいぐるみたちを見ては好みの物を二つ選んで眉間にしわを寄せている。どちらも可愛らしく種類も豊富で色も多彩。だからこそ悩むのだろう。
私がもう一つ買えば喜んでくれるかな…。
「決めた! こっちにする‼ じゃあ買ってくる!」
山吹くんが葛藤のすえ、決めたのは小さくフワフワとした触り心地のペンギンを選んで財布を持ってレジに近づく。私は有無を言わさず、戻したぬいぐるみを手に持ち、静かに財布を鞄から取り出す。
「韓紅~? 行くぞー!」
レジ終わるすぐ前に声を掛けられ、慌ててぬいぐるみを持って立ち去る。
「山吹くん! これあげる!」
「え、さっきのぬいぐるみ! 良いの⁉」
「いいよ。それに、山吹くんのために買った」
ぬいぐるみを渡した途端、顔の表情が満開に咲き誇る桜のように綺麗で、美しくて、それでも可愛く見える。
「山吹くん、好き。大好き! 付き合ってほしい!」
私の背中に強く暖かな風が押してくれたように感じる。勢いも時には勇気をもたらす。今の私はそう思うことができた。
その笑顔は私の前だけでいい。これからも…。
山吹くんの返事は風に紛れて私にだけ聞こえた。
「…そうだよ。だって浅葱は誰かに後ろを押されないとなかなか自分から行かない奴だから、俺が行くしかないんだ」
やっぱり、私はこういう優しい山吹くんが大好きなんだ。でもこの恋は実らないよね……。
「それに……。紙を渡しておけば、俺ら二人っきりになれるじゃん?」
え、山吹くん…、そんな甘い言葉を、耳を赤くしながら言うとかどんだけ可愛いの⁉ 待って、マジで惚れ直すし、今すぐに抱きしめたい。
「ねぇ、怖いんだけど…」
睨まれながら言うもんだから、慌てて誤解を解こうとするも無理そう。
「…もういいからどっか遊びに行くぞ!」
黒い背負うバッグを豪快に回して肩に当てるなり、すぐに教室を出ようとしていて、私も急いで後を追った。
「ま、待ってください!」
玄関までの道中、私たちは会話をすることはなかったが、靴を履き終えると山吹くんは照れながらも
「ど、どこ行く?」と首を傾げる。
つい、顔がニヤニヤしてしまい
「では、水族館に行きますか?」
「それいいね!」
後ろ歩きではしゃいでいる山吹くんの周りに注意を向けながらも、私はノリで手を差し伸べてみた。しかし、それがノリと気づいていない様子で私の手を握ってくれた。
「…あ、え⁉」
「……? 手繋ぎたかったんだろ?」
「そ、そうなんですけど…その」
「? じゃあ行こう!」
手を引っ張られ、抱いていた困惑がすぐさま周りの空気に消えていくように感じた。
「ネットではこの水族館おすすめらしいですよ。行ってみます?」
「うん!」
建物の外観にはたくさんの魚の模型が設置されており、ネットの写真と照らし合わせてすぐに気が付いた。入り口で受け付けをして、右手側から暗闇に身が溶け込んでいく。
「…韓紅‼ 見て見て!」
「綺麗なクラゲですね」
プカプカと波のない水の中を優雅に浮かぶクラゲは群れをなして大きな水槽を駆け回り、去っていく。その姿を見ていると現実から離れて辛いことが吹き飛んでいくよう。
目をキラキラとさせて、まるで好奇心を隠せない子どもみたい。そんな山吹くんを私の視線は気づかないうちに向いていた。
そんなことに気づかず熱中していた山吹くんの前にはたくさんの魚がやってきて注目の的になっていた。
「見て見て韓紅! めっちゃ可愛い‼」
「そうですね。可愛すぎます」
水槽の中で戯れる魚も可愛いけど、山吹くんもそれに劣らず可愛らしく、愛おしい。
「今日、イルカショーがあるみたいなんですけど行きますか?」
「行く‼」
入り口で貰ったパンフレットによればショーまで時間があり、それまで大きなサメの迫力さや小さなペンギンによる小股で歩く姿によって可愛さを堪能でき、しかも亀のエサやりの体験ができるらしく、山吹くんは目を輝かせて
「やってもいい??」と可愛い眼で私を直視してくる。
その愛おしさに耐え切れず、すぐさま縦に首を振る。
「見て見て韓紅! めっちゃムシャムシャって食べてる‼ 可愛すぎる!」
周りの子どもたちよりも楽しんでるようにも思える…。でも、楽しんでくれてるならここを選んで正解だったかもな。
保護者感覚で見ていると、あっという間に手持ちのエサが無くなって、山吹くんの顔も落ち込んでしまった。
「もうすぐイルカショーだし行こう……!」
「…うん!」
時間も余裕を持って着けるくらいで、向かっている最中にカニやアザラシなどの動物とも触れ合うことができるらしく、たまに触っては寂しくなってを繰り返す山吹くん。表情がたくさん変わって私も楽しめて嬉しい。
会場に着くなり、無料のカッパをスタッフから配布され、全体が見える席を隣同士で取りカッパを着る。
『それでは、これからイルカショーを始めます! 前に見えますイルカさんたち。右から……』
アナウンスが会場中に響き渡ってイルカの名前を呼んでいく。その名が響いた瞬間、水面が裂けるようにイルカが跳躍した。
「すごい‼ めっちゃすごい!」
「だね!」
水しぶきと一緒に飛んでくる声が歓声に混じって微かに聞こえる。
イルカたちは見事な踊りと美声で人々を魅了する。人を運んだり高い場所に吊るされた輪をくぐり抜けたりと私たちの視線を奪う。
「もう終わっちゃった……」
「…そうだね」
フードから頭を出して振り返ると、少しの水が山吹くんの服にかかって透けてしまっている。条件反射のように鞄からタオルと上着を取り出して山吹くんの胸元を隠す。
「……ぬ、濡れてるよ」
「おう、悪いな。ありがと!」
なんでこんなに無防備なの⁉ 私がいるっていうのに、襲いたい……。
乱れた思いを心の箱に無理やり押し入れ、どうにかして心を落ち着かせる。
「じゃあ行く?」
「うん! 最後にお土産見に行ってもいい?」
「いいですよ。ちょうど私も見てみたかったんで」
お互いに濡れた髪を拭ったタオルを袋の中にしまい、鞄に押し込んだ。
イルカショーの会場と土産屋は近くて、目と鼻の先ぐらいの距離だった。
「どれにしようかな」
壁にかかった小さなぬいぐるみたちを見ては好みの物を二つ選んで眉間にしわを寄せている。どちらも可愛らしく種類も豊富で色も多彩。だからこそ悩むのだろう。
私がもう一つ買えば喜んでくれるかな…。
「決めた! こっちにする‼ じゃあ買ってくる!」
山吹くんが葛藤のすえ、決めたのは小さくフワフワとした触り心地のペンギンを選んで財布を持ってレジに近づく。私は有無を言わさず、戻したぬいぐるみを手に持ち、静かに財布を鞄から取り出す。
「韓紅~? 行くぞー!」
レジ終わるすぐ前に声を掛けられ、慌ててぬいぐるみを持って立ち去る。
「山吹くん! これあげる!」
「え、さっきのぬいぐるみ! 良いの⁉」
「いいよ。それに、山吹くんのために買った」
ぬいぐるみを渡した途端、顔の表情が満開に咲き誇る桜のように綺麗で、美しくて、それでも可愛く見える。
「山吹くん、好き。大好き! 付き合ってほしい!」
私の背中に強く暖かな風が押してくれたように感じる。勢いも時には勇気をもたらす。今の私はそう思うことができた。
その笑顔は私の前だけでいい。これからも…。
山吹くんの返事は風に紛れて私にだけ聞こえた。



