「んっ、はぁ──っ」
暖かな唇で抵抗の一つ見せない口の中を辿る。中は溶けるチョコのように甘く、慣れてない俺のキスはどこか落ち着かない。それでも、なんとかして好きな人の前ではかっこよくいたいと思うのは俺だけではないだろう。
「梔子、かわいいよ。大好き」
「──はぁ、はぁ……」
俺は優しく無防備な梔子の額に唇を落とす。推しとこんなことをするなんて夢にも見なかった。
俺らの関係に変化が生まれたきっかけは、ある一つの通知だった。
ドイツに向かう一週間前の土曜日の朝。
『梔子:ねぇ、浅葱……。今日僕の家に来て』
窓から差し込む眩しい光が眠る俺の目に痛みを与える。
歪む視界をどうにかして整えようと暖かい指で目をこする。え、急にどうしたんだろう? 何かあったのかな…。
『浅葱:いいけど、どうしたの?』
『梔子:ドイツに行く前に二人っきりで話したくて、あと今日の夜までお母さんが仕事でいないから』
それってつまり……。いや、いかんいかん。ついつい妄想に浸りながらもなんとか保った意識で
『浅葱:分かった。すぐ向かう』と送り連絡は途絶えた。
「来てくれてありがとう!」
出迎えてくれたのはラフでモフモフな生地の部屋着を着た梔子だった。可愛さ満点、それに少しオーバーサイズが際立つ萌え袖。本人の性格上、わざとじゃないのが可愛いところだろう。
そんな可愛い梔子が続けて
「急に呼んでごめんね。この予定考えたのが夜中だったし、その時、配信中で疲れもあるだろうから、やめておこうってなったの」
「大丈夫だよ。俺も梔子に会うの楽しみにしてたから」
扉の先に案内されたのは前と同じ梔子の部屋だった。
「じゃあジュース持ってくるからゆっくりくつろいでいてね」
「…うん」
鞄を壁際の邪魔にならないところに置き、中央の大きなガラス机の端に向かって座る。この部屋に入ったのは初めてじゃないのに、なぜか異様に緊張してしまって辺りをキョロキョロとよそ見する。周りは変わらずの白さで、見ていると身体がソワソワしてポケットに入れていたスマホを取り出しエゴサーチする。
ふと目に飛び込んできたのは『食う梨』という文字。
その瞬間、一気に頭がフル回転し、食う梨さんが言っていたコメントや投稿が浮かんでくる。
「……そういえば、食う梨の言葉と梔子の行動って少し似てるのか?」
疑心暗鬼な言葉は少しずつ確信に迫りつつある。だが、本人にも聞いていないし、本当かどうかなんてまだ分からない。だから憶測で物を判断してはいけない。
「ただいま~…ってどうしたの? そんなに険しい顔して」
「いや、ただ……。考え事をしてたんだ」
俺は意を決して続ける。
「梔子のアカウントってこの人?」
俺のスマホ画面に映るプロフィール欄を、梔子は恐る恐る眺めては、口をパクパクさせてびっくりしている。
「どうして⁉ まさかずっと気づいてた?」
「いや、さっき思ったんだ。この人と梔子の言葉と行動が合致してるような気がして……。食う梨さんなんだよね?」
「そうだよ」
「ずっと推しててくれたんだ…。俺を好きになってくれてありがとう」
今の俺にはその言葉しか出てこない。でも心の中では言葉に表しきれないほどの感謝と嬉しさが溢れ出ている。
「僕こそだよ。浅葱くんのおかげで今の僕がいるし、あの時の言葉があったからこそだよ!」
泣くのを堪え、俺らは微笑み合う。
「なんか、恥ずかしいね」
梔子はそう言って恥ずかしさとともにジュースを飲み干す。
「ねぇ、僕たちって付き合ってるんでしょ?」
「うん」
改めて言われると、恥ずかしいけど付き合いたての時より俺の中には自信と断言が芽生えた。
梔子の目を合わせていると、近寄ってきて俺の足を跨いで座り込んでくる。
「じゃあさ、こ、恋人らしいことしない?」
赤面した顔で、だけど表情を崩さないように必死になった梔子がどうしても愛おしくて子供みたいに見えた。
「……いいよ」
体が倒れかけるが背中とベッドが密着してするつもりのない後ずさりはできなさそうだ。
「…ベッド行くか?」
「…うん‼」
俺ら二人しかいない部屋には軋む音、梔子の吐息、たまに聞こえる喘ぎに理性を保つのに必死になってしまう。それでも今目の前に横たわった梔子のはだけたお腹は筋が綺麗で指でなぞると声が漏れる。
「……んっ、あ、浅葱?」
「どうした?」
「…ずっと身体見ないで、恥ずかしい」
「分かった」
最後に両脇を軽く触ってからはだけた部分を増やす。美しくて小柄な体が視界いっぱいに見え、とても目のやり場に困る。でも、このあともっと……。
「……浅葱。………キスしよ?」
「いいよ」
怯えた表情を和らげるためにも軽いキスを当てる。だけど、した後の表情を覗くと少し物足りなさそうな顔をされて、思わずしたことのないキスを落とす。
「ん、…あ、浅葱。……はぁっ、はぁ」
息が絶え絶えになって口に繋がる細い糸が途切れていく。唇の水を飲みこもうと唇を辿るように舌を回す仕草で、俺は謝りも兼ねて頭を優しく撫でる。
「…わっ、どうしたの?」
びっくりした拍子に目が細くなって身体がびくついている。
「ううん。梔子が可愛くてついね」
「…へ、? か、可愛くない…」
「可愛いよ。ダメだ。梔子、もう進めていいか?」
「うん…! 続けて。早く浅葱が欲しい」
小柄で色白の足を開くと赤くなった顔を見られまいと両腕で隠しているのを、片手でシーツごと巻き込んで握る。
「え、あ、浅葱……、見ないで…」
「やだ。可愛い顔もっと見せて」
「やぁっ……」
無防備な額に唇を落として先に進む。
「あさぎ……」
俺の首に手を回されて思わず可愛い顔に接近してしまう。
「大好きだよ」
「僕も大好き…」
響く音すべてが耳に入ってきて大きく鳴る。
「浅葱ー、起きて! もう夜中になっちゃった」
重い瞼を擦りながら、掛け時計を覗くとすでに日が変わってしまっていた。
「本当だ。寝すぎた」
「お腹空いた? この時間に食べるのは罪だよね」
「……ふっ、そうだな。俺は空いてない」
起き上がろうとした梔子の体中には噛み跡、赤いマーキングが施されていた。
あぁ、あれ見ると恥ずかしくなってくる………。
洗面台に寄って行ったのか、その方面から梔子の声が響く。
「わぁ…! 浅葱、どうしよ! この跡隠せるかな?」
首の跡を指しながらワタワタと焦っているのが、どうしても背徳感を覚えたのは本人には内緒にしておくべきだろう。
「シャツ着れば隠れるよ。明日休みだし! ………きっと」
「そっか………?」
首をさすって俯く姿を見て申し訳なさを感じたが、嫉妬ばかりの俺にとってはこれ以上の喜びはないと思っている。
困惑を和ませようと大きく両手を広げると、すぐさま近寄って俺がベッドに押し倒されるくらいの勢いで抱きつかれた。あの時は俺の方がリードしてたのに、今になっては梔子に身を任せてしまう。
胸に頭を埋める梔子を優しく撫でる。
この時間がずっと続いたらいいな。
暖かな唇で抵抗の一つ見せない口の中を辿る。中は溶けるチョコのように甘く、慣れてない俺のキスはどこか落ち着かない。それでも、なんとかして好きな人の前ではかっこよくいたいと思うのは俺だけではないだろう。
「梔子、かわいいよ。大好き」
「──はぁ、はぁ……」
俺は優しく無防備な梔子の額に唇を落とす。推しとこんなことをするなんて夢にも見なかった。
俺らの関係に変化が生まれたきっかけは、ある一つの通知だった。
ドイツに向かう一週間前の土曜日の朝。
『梔子:ねぇ、浅葱……。今日僕の家に来て』
窓から差し込む眩しい光が眠る俺の目に痛みを与える。
歪む視界をどうにかして整えようと暖かい指で目をこする。え、急にどうしたんだろう? 何かあったのかな…。
『浅葱:いいけど、どうしたの?』
『梔子:ドイツに行く前に二人っきりで話したくて、あと今日の夜までお母さんが仕事でいないから』
それってつまり……。いや、いかんいかん。ついつい妄想に浸りながらもなんとか保った意識で
『浅葱:分かった。すぐ向かう』と送り連絡は途絶えた。
「来てくれてありがとう!」
出迎えてくれたのはラフでモフモフな生地の部屋着を着た梔子だった。可愛さ満点、それに少しオーバーサイズが際立つ萌え袖。本人の性格上、わざとじゃないのが可愛いところだろう。
そんな可愛い梔子が続けて
「急に呼んでごめんね。この予定考えたのが夜中だったし、その時、配信中で疲れもあるだろうから、やめておこうってなったの」
「大丈夫だよ。俺も梔子に会うの楽しみにしてたから」
扉の先に案内されたのは前と同じ梔子の部屋だった。
「じゃあジュース持ってくるからゆっくりくつろいでいてね」
「…うん」
鞄を壁際の邪魔にならないところに置き、中央の大きなガラス机の端に向かって座る。この部屋に入ったのは初めてじゃないのに、なぜか異様に緊張してしまって辺りをキョロキョロとよそ見する。周りは変わらずの白さで、見ていると身体がソワソワしてポケットに入れていたスマホを取り出しエゴサーチする。
ふと目に飛び込んできたのは『食う梨』という文字。
その瞬間、一気に頭がフル回転し、食う梨さんが言っていたコメントや投稿が浮かんでくる。
「……そういえば、食う梨の言葉と梔子の行動って少し似てるのか?」
疑心暗鬼な言葉は少しずつ確信に迫りつつある。だが、本人にも聞いていないし、本当かどうかなんてまだ分からない。だから憶測で物を判断してはいけない。
「ただいま~…ってどうしたの? そんなに険しい顔して」
「いや、ただ……。考え事をしてたんだ」
俺は意を決して続ける。
「梔子のアカウントってこの人?」
俺のスマホ画面に映るプロフィール欄を、梔子は恐る恐る眺めては、口をパクパクさせてびっくりしている。
「どうして⁉ まさかずっと気づいてた?」
「いや、さっき思ったんだ。この人と梔子の言葉と行動が合致してるような気がして……。食う梨さんなんだよね?」
「そうだよ」
「ずっと推しててくれたんだ…。俺を好きになってくれてありがとう」
今の俺にはその言葉しか出てこない。でも心の中では言葉に表しきれないほどの感謝と嬉しさが溢れ出ている。
「僕こそだよ。浅葱くんのおかげで今の僕がいるし、あの時の言葉があったからこそだよ!」
泣くのを堪え、俺らは微笑み合う。
「なんか、恥ずかしいね」
梔子はそう言って恥ずかしさとともにジュースを飲み干す。
「ねぇ、僕たちって付き合ってるんでしょ?」
「うん」
改めて言われると、恥ずかしいけど付き合いたての時より俺の中には自信と断言が芽生えた。
梔子の目を合わせていると、近寄ってきて俺の足を跨いで座り込んでくる。
「じゃあさ、こ、恋人らしいことしない?」
赤面した顔で、だけど表情を崩さないように必死になった梔子がどうしても愛おしくて子供みたいに見えた。
「……いいよ」
体が倒れかけるが背中とベッドが密着してするつもりのない後ずさりはできなさそうだ。
「…ベッド行くか?」
「…うん‼」
俺ら二人しかいない部屋には軋む音、梔子の吐息、たまに聞こえる喘ぎに理性を保つのに必死になってしまう。それでも今目の前に横たわった梔子のはだけたお腹は筋が綺麗で指でなぞると声が漏れる。
「……んっ、あ、浅葱?」
「どうした?」
「…ずっと身体見ないで、恥ずかしい」
「分かった」
最後に両脇を軽く触ってからはだけた部分を増やす。美しくて小柄な体が視界いっぱいに見え、とても目のやり場に困る。でも、このあともっと……。
「……浅葱。………キスしよ?」
「いいよ」
怯えた表情を和らげるためにも軽いキスを当てる。だけど、した後の表情を覗くと少し物足りなさそうな顔をされて、思わずしたことのないキスを落とす。
「ん、…あ、浅葱。……はぁっ、はぁ」
息が絶え絶えになって口に繋がる細い糸が途切れていく。唇の水を飲みこもうと唇を辿るように舌を回す仕草で、俺は謝りも兼ねて頭を優しく撫でる。
「…わっ、どうしたの?」
びっくりした拍子に目が細くなって身体がびくついている。
「ううん。梔子が可愛くてついね」
「…へ、? か、可愛くない…」
「可愛いよ。ダメだ。梔子、もう進めていいか?」
「うん…! 続けて。早く浅葱が欲しい」
小柄で色白の足を開くと赤くなった顔を見られまいと両腕で隠しているのを、片手でシーツごと巻き込んで握る。
「え、あ、浅葱……、見ないで…」
「やだ。可愛い顔もっと見せて」
「やぁっ……」
無防備な額に唇を落として先に進む。
「あさぎ……」
俺の首に手を回されて思わず可愛い顔に接近してしまう。
「大好きだよ」
「僕も大好き…」
響く音すべてが耳に入ってきて大きく鳴る。
「浅葱ー、起きて! もう夜中になっちゃった」
重い瞼を擦りながら、掛け時計を覗くとすでに日が変わってしまっていた。
「本当だ。寝すぎた」
「お腹空いた? この時間に食べるのは罪だよね」
「……ふっ、そうだな。俺は空いてない」
起き上がろうとした梔子の体中には噛み跡、赤いマーキングが施されていた。
あぁ、あれ見ると恥ずかしくなってくる………。
洗面台に寄って行ったのか、その方面から梔子の声が響く。
「わぁ…! 浅葱、どうしよ! この跡隠せるかな?」
首の跡を指しながらワタワタと焦っているのが、どうしても背徳感を覚えたのは本人には内緒にしておくべきだろう。
「シャツ着れば隠れるよ。明日休みだし! ………きっと」
「そっか………?」
首をさすって俯く姿を見て申し訳なさを感じたが、嫉妬ばかりの俺にとってはこれ以上の喜びはないと思っている。
困惑を和ませようと大きく両手を広げると、すぐさま近寄って俺がベッドに押し倒されるくらいの勢いで抱きつかれた。あの時は俺の方がリードしてたのに、今になっては梔子に身を任せてしまう。
胸に頭を埋める梔子を優しく撫でる。
この時間がずっと続いたらいいな。



