「もうすぐ文化祭が始まるわけだが、お前らちゃんと出し物の案は考えてるのか?」
教卓前で朝の会の終わりぐらいに先生から忠告された出し物の案。ほとんどの生徒が「まだ~」とか「大体?」とか曖昧な返事をするものだから、先生も呆れて
「じゃあ一校時は俺の授業だからそこで委員長を中心に決めてくれ」
と時間を作ってくれた。皆にとっては退屈な授業が無くなって声を上げて喜んでいたが、先生はいつもよりもダルそうな声で
「喜ぶのはいいが一時間で決めちまえよ」
みたいに言って皆も空返事になってはいたが俺らのクラスは切り替えが上手で先生もそこらへんは信用しているようだ。
最初は面倒だと全員が口を揃えてこぼしていたが、何とか俺らのクラスはプラネタリウムをするらしい。手間もあまりなくお客さんがたくさん来るだろうという理由が決め手となった。しかも店番は二人のみで他の人は出店をブラブラと見て回ってもいいらしい。それにクラスの大半は文化祭のイベントの一つである学年劇のキャストだったり、音響照明だったりと仕事はたくさんあるようだ。
ちなみに梔子と俺は学年劇側の人間だ。どうせなら山吹と韓紅たちとも一緒が良かったが出し物の方へ行ってしまったのでしょうがない。
「俺は台本を作る係になったんだが、梔子は?」
「ん~僕も浅葱と一緒に台本を作ろうかな」
教室の隅で俺らの話を聞いていたクラスメイトが
「え~梔子くんは、キャストに出てほしいな‼ 顔も可愛いし! 女の子役でも行けちゃいそう!」
一瞬にして梔子の周りに群がっては梔子の意見を聞かず、キャストに出てほしいだの、絶対似合うだの、自分の意見だけを押し付けてくる。しまいには、その話を聞いていた担任が
「そうだな、よし梔子はキャストで出ろ」
と勝手に決めてしまった。梔子も嫌だと言いたかったようだが、女子の圧力に負けてしまった。
「どうしよう、浅葱~…」
正式にキャストになってしまい、台本も完成してしまって内容を見て俺も驚愕してしまう。梔子が演技する役はエマという少女で、相手のルーカスという幼馴染の彼と最後にはキスをする。俺からしても梔子からしてもそんなことは望んでないし、したくない。
「僕、浅葱以外とキスしたくない……」
いつもの場所で誰も見ていないのを知っているのか、梔子は俺の身体に腕を回して泣き顔を見せないように顔を胸に押し込んでいる。
相手のルーカス役は、面白半分で決めた橡が演じることに…。
しかし俺の言葉一つでキャストを変えることもできないし、反感を買ってしまう…。どうすることもできないのだ。今、動くことのできない自分に腹が立ってしょうがない。
俺が動けない間に時間はどんどんと進んでいき、練習では梔子がキスを断っていたが、あれほど密着させていれば腹も立つ。それに、橡はプライドや自己肯定感が高く、梔子がキスを避けるのを
「私とキスするのが恥ずかしいのかしら。それとも本番までに私との初めてを残しているのかしら」
と高貴な悪役令嬢のような高笑いとともに言うものだから余計に腹が立つ。
クラスメイトも梔子が嫌がってるのが分かっていても彼女に勝つことはできない。橡は権力を握ってその権力を乱用している。
本番になって次々に三年生から劇を始めていき、二年生の劇の終わりでは俺らの学年が支度を急いで行っている。梔子は嫌々に衣装を着替えて橡は喜んで服を着るが………。本番直前になって橡が
「捻挫してしまったわ、痛い……」
と舞台裏で嘆いている。
周りの人は慌てて代わりに演じられる人はいないか探すが、ルーカスのセリフは一つ一つが長くて決して素人では感情を乗せづらいものばかり。でもそのセリフ全てを覚えているのは俺だけ。だから俺はすぐに手を挙げる。
「……ありがとう! 衣装は予備が裏にあるからそれを着てくれ!」
委員長の指示のもと、俺は衣装に着替えながらセリフや物語の流れを思い出す。
「大丈夫か!」
心配するクラスメイトをよそに俺は勇気を出して前に踏み込む。
『次の発表は星降る街の約束です。それではどうぞ』
正午の光が街中の所々に降り注ぎ、風を作り出す。その光に包まれるのは二人の男女。
「エマよ、今度開かれる『星祭り』に一緒に来てくれないか?」
手を差し出し、エマの許しを待つ。これは紳士としての当たり前な行動である。
「そうですね、私もルーカスさんとは行きたいと思っていました」
『毎年開催される祭り、星祭りには、一緒に星を見た二人は結ばれるという言い伝えがありました。そしてルーカスは最後にと、ずっと思いを馳せたエマを誘ったのです。実は、もうすぐルーカスの家族は遠くの国へ引っ越してしまうことになったのです。それも突然に、国王の命令に逆らえる者は誰もいないのです。ルーカスの家族もその中の一家です』
場面は変わり、様々な人物や困難を二人で乗り越え、徐々にエマの可愛さやかっこよさに惚れ直し、星祭りが楽しみで夜も眠れない日が続く。
ついに約束した星祭りの会場。
「綺麗ね、ルーカスさん」
星に見惚れるエマの手を優しく掴む。その手は冷たく、でも多少の暖かさと柔らかさが残っており、告白の勇気を与えてくれた。
「エマ、俺はずっとお前のことが好きだった。しかしもうすぐここを去ってしまう。だから最後にと、この祭りを誘った。伝えるのが遅くなって申し訳ない」
エマは一呼吸置いて、
「私も好きです。実はルーカスさんがこの国を離れることは町の人々が教えてくださいました。しかし言わなかったのは、私の意地悪でもあります。すみませんでした」
告白をしたのにエマの謝罪によって俺は慌てて、彼女の平謝りを否定した。
「謝ることはない‼ 俺こそ、すまなかった」
互いが謝って、会話もわけ分からないことになってしまったがとりあえずは一件落着ということで。
「では、またこの町で会おう」
「はい、約束ですよ」
俺と梔子は流れ星が空を横切るのと同時にキスをし合う。それも優しく濃厚な…。黒い幕が最後まで降りるのを待ちながら、キスをし続ける。しかし目を開けることは男ながらにできなかった。クラスメイトの
「カットーーーー!」
という声が舞台で響いた瞬間、俺らは我に返った。気が付けばクラスメイトも観客席も黄色い歓声が響き渡っていた。
「二人ともお疲れ様! すごく良かったよ! 特に最後のキスシーンは自然過ぎて見てる俺らまで目を奪われたよ!」
「「ありがとうございます!」」
俺らはお互いを見合うなり強くハグをする。まるで本当にエマとルーカスが離れるのを惜しく思うように……。
一方その頃、山吹と韓紅は……。
「暇だねぇ~」
「そうですね…」
俺らは今、出し物であるプラネタリウムの店番を任されている。お客さんも来るには来るんだが、大抵はカップルとかばっかり。
「そう言えば、韓紅はこれからどこか見に行く?…あ、いらっしゃいませ」
「ん~気になってるところはあるんですが、山吹くんはどこか行きますか?…一時間コースですね。ではちょうど貰います。右手側の扉から入ってもらって空いている好きな席にお座りください」
「行くところはないかな」
「では、私と一緒に回りませんか?」
そっか、韓紅はイケメンだし、俺がいれば邪魔が入らなくて済む…もんな。俺も誰かと行こうって考えてたけど、誘うの忘れてたからちょうどいい。
「いいぜ。その気になってるところ行く?」
そういうとすぐさま俺の両手を持つなり目を輝かせて
「はい! ぜひ山吹くんと行きたいです! 気になってるところは、お化け屋敷なんですが、大丈夫ですか?」
げっ、お化け屋敷か。俺、妖怪とか幽霊とか怖いんだよな…。でもこんなに綺麗な眼差しで言われると断りづらい。だけど韓紅なら安心して胸を貸せるし、こいつなら俺より身長高いから守ってもらえそうだな。
「まぁ、大丈夫だろう。じゃあ次の交代で俺らの仕事はもうないからずっと回ってようぜ」
「はい‼」
その後の作業は二人とも最初の時よりもスムーズかつテキパキとしていて、お客さんも通りかかった人も多く利用してもらった。
「次の店番お願いします」
あっという間に次の店番の人が五分前に来てくれたおかげで早めに終えられた。
「じゃあ、お化け屋敷…行くか」
「はい! 行きましょう‼」
教室を出てすぐに、いくつかの宣伝版がチラチラと窺えた。クロワッサン屋とか射的屋、ビンゴ大会など種類も豊富で思わず見入ってしまう。頭の中でもどんな種類のクロワッサンが⁉ とか 射的の景品はなんだろう。とか思いを巡らせる。
「そろそろお化け屋敷に着きますが、何か食べたいのはありますか? ずっと店番しててお互いご飯を食べていませんでしたし」
「そうだな…。じゃあクロワッサン屋行ってもいいか?」
「いいですよ」
韓紅は俺より身長が高くて、どうしても甘えてしまう。それに傍から見たら兄弟と思われるのではないかと、自分の身長に少しだけ邪念を抱く。
「……山吹くんは可愛いですよ? だからそのままでいてください」
歩き出そうとした瞬間、韓紅は先頭を切るのかと思ったが立ち止まり振り向くと、俺の心を読んだような言葉を言っている。
俺ってそんなに分かりやすい顔してたのか?
慌てて自分の両頬に手で触るが、焦った後で全く顔に出ていたかなど分からなかった。
「…てか可愛いとか男には使わないだろう」
「いえ、使います。特に山吹くんには」
頭の上には「?」が浮かび、軽く
「なるほど…」
と納得してしまう。すると、背後から肩をポンポンと叩かれ、びっくりと同時に振り返ると、クラスメイトの女子が親指を立ててジェスチャーをする……が俺には理解ができなかった…。でも一応、その返しに俺も親指を立てる。
「じゃあ行きましょう!」
そう言って俺のがら空きだった腕を掴んで大勢の人混みを見事にかわして、お目当てだったクロワッサン屋に到着する。
「山吹くんはどれが欲しいんですか?」
店内に入ると台の上に種類豊富なクロワッサンがトレーに並べられている。綺麗に並べられたトングを手に取り、どれにしようかと目を輝かせて商品を吟味する。
「なんでもいいですよ。もし食べきれないなら俺が食います。それか袋に入れますか?」
「ん~、じゃあお前も食ってくれ! 一緒に食べる方が美味いだろ!」
「…そうですね。では私もいただきます」
王道のチョコクロワッサンから抹茶クロワッサンまで幅広い味が陳列されている。そこで俺らの好みや知らない独特な味のものを掴んで持っていたトレーに乗せる。少し雑に並べるのも味があって面白い。
「では、お会計は……」
店から出ると袋に入ったクロワッサンの香ばしさが際立って店を去ってしまう切なさが舞っていく。
「どこで食べる?」
匂いに負けて笑みがこぼれっぱなしになっている。それを気にする時間もないくらい敗北したのだ。
「そうですね……じゃあ」
そう言って向かった先は出店が開かれている新校舎に隣接している旧校舎。最近は授業での実験以外に使われることなく、あまり整備されていない。
「ここって…空き教室? こんなところあったんだ」
韓紅が扉を開いてくれ、中に入ると机と椅子が綺麗に端に寄せられて多少のホコリはあるが、なぜか旧校舎というのに綺麗に保っている。
「この前の放課後、親の迎えが来ない時に探検していたら見つけて、その時はホコリとかいっぱいあったので、もしかしたら山吹くんと二人で昼ご飯が食べられると思って、掃除しておきました」
目を輝かせていうものだから、ついつい甘やかしてしまうのは俺の悪いところだろうか…。でも、どうしてか頼っても許されるというか毎回、いつでもいいよって両腕を広げてそう…。
「ありがとう…。じゃあ食べる?」
二人で壁に背を預けて座ると冷たさが身体全体に広がっていく。
「…つ、冷たいね」
「そうですね。大丈夫ですか? 嫌なら机と椅子出しますよ」
「いや大丈夫。ありがとう」
袋から出すとイチゴや紅茶、サイダーなどいろんな匂いが漂ってくる。
「サイダー味のクロワッサンって…ほぼ面白枠だよな」
「…ふふ、そうですね」
「はい、半分こね」
王道のチョコクロワッサンを大体半分に指で割って手ぶらになった韓紅に渡す。
大きな口で食べる俺と小さく千切って食べる韓紅。
食べ方がまるで小動物…のようでギャップがあるような。それにしてもこのクロワッサン美味しい! でもすぐ食べ終わっちゃうかも……。
もう終わっちゃったー。
クロワッサンの粉を舐め取り、袋の中身を覗き見る。
「よし、次はどれ食べる?」
「では、サイダークロワッサンを食べてみますか?」
「了解!」
少し薄い空色に少しチョコの粒が混ざったクロワッサン。
本当に美味しいのか不安。
「やっぱり、変な味が口に広がるね…」
サイダークロワッサンも抹茶クロワッサンも食べ終わって、意見交流したが二人揃って変な味と豪語する。
「……じゃあ飲み物買ってからお化け屋敷に直行する?」
「はい! では行きましょう」
立ち上がった韓紅は俺に手を差し伸べてくれてエスコートしてくれた。今、彼の背中はまるで王子様のようなかっこいい雰囲気を背中から醸し出している。
あぁこの人になら任せてもいいかもな……。
教卓前で朝の会の終わりぐらいに先生から忠告された出し物の案。ほとんどの生徒が「まだ~」とか「大体?」とか曖昧な返事をするものだから、先生も呆れて
「じゃあ一校時は俺の授業だからそこで委員長を中心に決めてくれ」
と時間を作ってくれた。皆にとっては退屈な授業が無くなって声を上げて喜んでいたが、先生はいつもよりもダルそうな声で
「喜ぶのはいいが一時間で決めちまえよ」
みたいに言って皆も空返事になってはいたが俺らのクラスは切り替えが上手で先生もそこらへんは信用しているようだ。
最初は面倒だと全員が口を揃えてこぼしていたが、何とか俺らのクラスはプラネタリウムをするらしい。手間もあまりなくお客さんがたくさん来るだろうという理由が決め手となった。しかも店番は二人のみで他の人は出店をブラブラと見て回ってもいいらしい。それにクラスの大半は文化祭のイベントの一つである学年劇のキャストだったり、音響照明だったりと仕事はたくさんあるようだ。
ちなみに梔子と俺は学年劇側の人間だ。どうせなら山吹と韓紅たちとも一緒が良かったが出し物の方へ行ってしまったのでしょうがない。
「俺は台本を作る係になったんだが、梔子は?」
「ん~僕も浅葱と一緒に台本を作ろうかな」
教室の隅で俺らの話を聞いていたクラスメイトが
「え~梔子くんは、キャストに出てほしいな‼ 顔も可愛いし! 女の子役でも行けちゃいそう!」
一瞬にして梔子の周りに群がっては梔子の意見を聞かず、キャストに出てほしいだの、絶対似合うだの、自分の意見だけを押し付けてくる。しまいには、その話を聞いていた担任が
「そうだな、よし梔子はキャストで出ろ」
と勝手に決めてしまった。梔子も嫌だと言いたかったようだが、女子の圧力に負けてしまった。
「どうしよう、浅葱~…」
正式にキャストになってしまい、台本も完成してしまって内容を見て俺も驚愕してしまう。梔子が演技する役はエマという少女で、相手のルーカスという幼馴染の彼と最後にはキスをする。俺からしても梔子からしてもそんなことは望んでないし、したくない。
「僕、浅葱以外とキスしたくない……」
いつもの場所で誰も見ていないのを知っているのか、梔子は俺の身体に腕を回して泣き顔を見せないように顔を胸に押し込んでいる。
相手のルーカス役は、面白半分で決めた橡が演じることに…。
しかし俺の言葉一つでキャストを変えることもできないし、反感を買ってしまう…。どうすることもできないのだ。今、動くことのできない自分に腹が立ってしょうがない。
俺が動けない間に時間はどんどんと進んでいき、練習では梔子がキスを断っていたが、あれほど密着させていれば腹も立つ。それに、橡はプライドや自己肯定感が高く、梔子がキスを避けるのを
「私とキスするのが恥ずかしいのかしら。それとも本番までに私との初めてを残しているのかしら」
と高貴な悪役令嬢のような高笑いとともに言うものだから余計に腹が立つ。
クラスメイトも梔子が嫌がってるのが分かっていても彼女に勝つことはできない。橡は権力を握ってその権力を乱用している。
本番になって次々に三年生から劇を始めていき、二年生の劇の終わりでは俺らの学年が支度を急いで行っている。梔子は嫌々に衣装を着替えて橡は喜んで服を着るが………。本番直前になって橡が
「捻挫してしまったわ、痛い……」
と舞台裏で嘆いている。
周りの人は慌てて代わりに演じられる人はいないか探すが、ルーカスのセリフは一つ一つが長くて決して素人では感情を乗せづらいものばかり。でもそのセリフ全てを覚えているのは俺だけ。だから俺はすぐに手を挙げる。
「……ありがとう! 衣装は予備が裏にあるからそれを着てくれ!」
委員長の指示のもと、俺は衣装に着替えながらセリフや物語の流れを思い出す。
「大丈夫か!」
心配するクラスメイトをよそに俺は勇気を出して前に踏み込む。
『次の発表は星降る街の約束です。それではどうぞ』
正午の光が街中の所々に降り注ぎ、風を作り出す。その光に包まれるのは二人の男女。
「エマよ、今度開かれる『星祭り』に一緒に来てくれないか?」
手を差し出し、エマの許しを待つ。これは紳士としての当たり前な行動である。
「そうですね、私もルーカスさんとは行きたいと思っていました」
『毎年開催される祭り、星祭りには、一緒に星を見た二人は結ばれるという言い伝えがありました。そしてルーカスは最後にと、ずっと思いを馳せたエマを誘ったのです。実は、もうすぐルーカスの家族は遠くの国へ引っ越してしまうことになったのです。それも突然に、国王の命令に逆らえる者は誰もいないのです。ルーカスの家族もその中の一家です』
場面は変わり、様々な人物や困難を二人で乗り越え、徐々にエマの可愛さやかっこよさに惚れ直し、星祭りが楽しみで夜も眠れない日が続く。
ついに約束した星祭りの会場。
「綺麗ね、ルーカスさん」
星に見惚れるエマの手を優しく掴む。その手は冷たく、でも多少の暖かさと柔らかさが残っており、告白の勇気を与えてくれた。
「エマ、俺はずっとお前のことが好きだった。しかしもうすぐここを去ってしまう。だから最後にと、この祭りを誘った。伝えるのが遅くなって申し訳ない」
エマは一呼吸置いて、
「私も好きです。実はルーカスさんがこの国を離れることは町の人々が教えてくださいました。しかし言わなかったのは、私の意地悪でもあります。すみませんでした」
告白をしたのにエマの謝罪によって俺は慌てて、彼女の平謝りを否定した。
「謝ることはない‼ 俺こそ、すまなかった」
互いが謝って、会話もわけ分からないことになってしまったがとりあえずは一件落着ということで。
「では、またこの町で会おう」
「はい、約束ですよ」
俺と梔子は流れ星が空を横切るのと同時にキスをし合う。それも優しく濃厚な…。黒い幕が最後まで降りるのを待ちながら、キスをし続ける。しかし目を開けることは男ながらにできなかった。クラスメイトの
「カットーーーー!」
という声が舞台で響いた瞬間、俺らは我に返った。気が付けばクラスメイトも観客席も黄色い歓声が響き渡っていた。
「二人ともお疲れ様! すごく良かったよ! 特に最後のキスシーンは自然過ぎて見てる俺らまで目を奪われたよ!」
「「ありがとうございます!」」
俺らはお互いを見合うなり強くハグをする。まるで本当にエマとルーカスが離れるのを惜しく思うように……。
一方その頃、山吹と韓紅は……。
「暇だねぇ~」
「そうですね…」
俺らは今、出し物であるプラネタリウムの店番を任されている。お客さんも来るには来るんだが、大抵はカップルとかばっかり。
「そう言えば、韓紅はこれからどこか見に行く?…あ、いらっしゃいませ」
「ん~気になってるところはあるんですが、山吹くんはどこか行きますか?…一時間コースですね。ではちょうど貰います。右手側の扉から入ってもらって空いている好きな席にお座りください」
「行くところはないかな」
「では、私と一緒に回りませんか?」
そっか、韓紅はイケメンだし、俺がいれば邪魔が入らなくて済む…もんな。俺も誰かと行こうって考えてたけど、誘うの忘れてたからちょうどいい。
「いいぜ。その気になってるところ行く?」
そういうとすぐさま俺の両手を持つなり目を輝かせて
「はい! ぜひ山吹くんと行きたいです! 気になってるところは、お化け屋敷なんですが、大丈夫ですか?」
げっ、お化け屋敷か。俺、妖怪とか幽霊とか怖いんだよな…。でもこんなに綺麗な眼差しで言われると断りづらい。だけど韓紅なら安心して胸を貸せるし、こいつなら俺より身長高いから守ってもらえそうだな。
「まぁ、大丈夫だろう。じゃあ次の交代で俺らの仕事はもうないからずっと回ってようぜ」
「はい‼」
その後の作業は二人とも最初の時よりもスムーズかつテキパキとしていて、お客さんも通りかかった人も多く利用してもらった。
「次の店番お願いします」
あっという間に次の店番の人が五分前に来てくれたおかげで早めに終えられた。
「じゃあ、お化け屋敷…行くか」
「はい! 行きましょう‼」
教室を出てすぐに、いくつかの宣伝版がチラチラと窺えた。クロワッサン屋とか射的屋、ビンゴ大会など種類も豊富で思わず見入ってしまう。頭の中でもどんな種類のクロワッサンが⁉ とか 射的の景品はなんだろう。とか思いを巡らせる。
「そろそろお化け屋敷に着きますが、何か食べたいのはありますか? ずっと店番しててお互いご飯を食べていませんでしたし」
「そうだな…。じゃあクロワッサン屋行ってもいいか?」
「いいですよ」
韓紅は俺より身長が高くて、どうしても甘えてしまう。それに傍から見たら兄弟と思われるのではないかと、自分の身長に少しだけ邪念を抱く。
「……山吹くんは可愛いですよ? だからそのままでいてください」
歩き出そうとした瞬間、韓紅は先頭を切るのかと思ったが立ち止まり振り向くと、俺の心を読んだような言葉を言っている。
俺ってそんなに分かりやすい顔してたのか?
慌てて自分の両頬に手で触るが、焦った後で全く顔に出ていたかなど分からなかった。
「…てか可愛いとか男には使わないだろう」
「いえ、使います。特に山吹くんには」
頭の上には「?」が浮かび、軽く
「なるほど…」
と納得してしまう。すると、背後から肩をポンポンと叩かれ、びっくりと同時に振り返ると、クラスメイトの女子が親指を立ててジェスチャーをする……が俺には理解ができなかった…。でも一応、その返しに俺も親指を立てる。
「じゃあ行きましょう!」
そう言って俺のがら空きだった腕を掴んで大勢の人混みを見事にかわして、お目当てだったクロワッサン屋に到着する。
「山吹くんはどれが欲しいんですか?」
店内に入ると台の上に種類豊富なクロワッサンがトレーに並べられている。綺麗に並べられたトングを手に取り、どれにしようかと目を輝かせて商品を吟味する。
「なんでもいいですよ。もし食べきれないなら俺が食います。それか袋に入れますか?」
「ん~、じゃあお前も食ってくれ! 一緒に食べる方が美味いだろ!」
「…そうですね。では私もいただきます」
王道のチョコクロワッサンから抹茶クロワッサンまで幅広い味が陳列されている。そこで俺らの好みや知らない独特な味のものを掴んで持っていたトレーに乗せる。少し雑に並べるのも味があって面白い。
「では、お会計は……」
店から出ると袋に入ったクロワッサンの香ばしさが際立って店を去ってしまう切なさが舞っていく。
「どこで食べる?」
匂いに負けて笑みがこぼれっぱなしになっている。それを気にする時間もないくらい敗北したのだ。
「そうですね……じゃあ」
そう言って向かった先は出店が開かれている新校舎に隣接している旧校舎。最近は授業での実験以外に使われることなく、あまり整備されていない。
「ここって…空き教室? こんなところあったんだ」
韓紅が扉を開いてくれ、中に入ると机と椅子が綺麗に端に寄せられて多少のホコリはあるが、なぜか旧校舎というのに綺麗に保っている。
「この前の放課後、親の迎えが来ない時に探検していたら見つけて、その時はホコリとかいっぱいあったので、もしかしたら山吹くんと二人で昼ご飯が食べられると思って、掃除しておきました」
目を輝かせていうものだから、ついつい甘やかしてしまうのは俺の悪いところだろうか…。でも、どうしてか頼っても許されるというか毎回、いつでもいいよって両腕を広げてそう…。
「ありがとう…。じゃあ食べる?」
二人で壁に背を預けて座ると冷たさが身体全体に広がっていく。
「…つ、冷たいね」
「そうですね。大丈夫ですか? 嫌なら机と椅子出しますよ」
「いや大丈夫。ありがとう」
袋から出すとイチゴや紅茶、サイダーなどいろんな匂いが漂ってくる。
「サイダー味のクロワッサンって…ほぼ面白枠だよな」
「…ふふ、そうですね」
「はい、半分こね」
王道のチョコクロワッサンを大体半分に指で割って手ぶらになった韓紅に渡す。
大きな口で食べる俺と小さく千切って食べる韓紅。
食べ方がまるで小動物…のようでギャップがあるような。それにしてもこのクロワッサン美味しい! でもすぐ食べ終わっちゃうかも……。
もう終わっちゃったー。
クロワッサンの粉を舐め取り、袋の中身を覗き見る。
「よし、次はどれ食べる?」
「では、サイダークロワッサンを食べてみますか?」
「了解!」
少し薄い空色に少しチョコの粒が混ざったクロワッサン。
本当に美味しいのか不安。
「やっぱり、変な味が口に広がるね…」
サイダークロワッサンも抹茶クロワッサンも食べ終わって、意見交流したが二人揃って変な味と豪語する。
「……じゃあ飲み物買ってからお化け屋敷に直行する?」
「はい! では行きましょう」
立ち上がった韓紅は俺に手を差し伸べてくれてエスコートしてくれた。今、彼の背中はまるで王子様のようなかっこいい雰囲気を背中から醸し出している。
あぁこの人になら任せてもいいかもな……。
