灰音は案内されるまま、鳳凰寺家の長い廊下を進む。
廊下には飾り棚があり、そこには美しい扇や壺などが並んでいた。それらは綺麗な芸術品であり、甘露桜家で見る禍々しい呪具とはまるで違う。
家の中をじろじろ見るのは失礼だとは思ったが、扇や壺に描かれている花の絵などは見事で、つい視線を向けてしまう。
やがて浴室に案内された灰音は、使用人たちにお礼を言ってお湯を借りた。
着物を脱ぐと、思ったより乾いた泥などがついており、これで他人の車に乗ってしまったことを申し訳なく思った。
風呂から上がると、脱いだ着物の代わりに新しく浴衣が用意されており、灰音はありがたくそれを身につけた。白地に梅柄の綺麗な浴衣だ。
支度を調えた時、ちょうど扉の外から声がかかった。
「灰音さま。扉を開けてもよいでしょうか?」
「は、はい」
「失礼いたします」
入ってきたのは、先ほど吉江と呼ばれていた使用人だった。
「浴室に不便などございませんでしたか?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
「それはよかったです。では、こちらへ。お部屋へ案内いたします」
吉江はにこりと笑うと歩き出し、灰音はその後をついて行った。
通された部屋は、綺麗な和室だった。
部屋の広さは十畳ほどだ。部屋の中央には机と座布団が置かれており、床の間には花が生けられている。部屋の奥の障子が開いており、大きな雪見窓が見えた。今は暗くてわかりにくいが、ここから庭を見ることが出来るようだ。
灰音はそっと部屋に足を踏み入れた。
(すごく綺麗な客間……)
襖絵の花の絵も美しい。とても立派な客間だと思ったが、吉江が襖を開け、
「こちらもお使いになってください」
そこにさらに同じ大きさの部屋があったので、灰音は目を丸くした。
まず目に入ったのは、衣桁に掛けられた美しい着物だった。灰音が着ていた着物に近い色と柄だったが、とても艶やかで、はるかに上質に見えた。
「お着物は戦闘で破れてしまったとお伺いしました。当主さまの命で、似たものをご用意させていただきました。明日は、こちらをお召しになってください」
「ありがとうございます」
衣桁の隣には桐箪笥と姿見があり、気に入らなければ箪笥の中から選んでくれても良いという。だが、箪笥を開けるのは気が引けた。
吉江がさらに襖に手をかけたので、一瞬灰音はまた部屋が出てくるのではないかとおびえたが、今度は押し入れだった。
「お布団はこちらにございます」
「わかりました」
灰音はほっとして頷いた。
「お体が痛むようでしたら、今すぐ敷きますが……」
「いえ、大丈夫です」
「よろしいのですか? では、お医者さまがいらっしゃるまで今しばらくお待ちくださいませ」
吉江が部屋を出て、ひとりになった灰音は部屋にあった座椅子に座った。
医者を呼んでくれるのはありがたいが、布団を借りるほどでもないはずだ。
「……なんだか、疲れたな……」
息をはいて、背もたれに寄りかかる。すると体が重くなって、灰音は段々うとうととしはじめた。



