お姉さまは雑魚で、無能で、出来損ない。
だって私が五歳で出来たことが、お姉さまは今だってひとつも出来やしないんだもの。
そう、思っていた。
いや、今でも思っている。
私は、優秀なのだと。私は、父に認められた跡継ぎで、甘露桜家を背負う存在で、下級位であることを今にもひっくり返すことが出来る存在なのだと。
だから、現状を認められなかった。
この私が、『妖怪の姿が見えない』なんて、絶対にあり得ない。
だけど、お姉さまが家を出て以降それは事実で、だからお父さまが何気なく言った言葉が引っかかった。
「そういえば、以前は使用人たちが『蔵から声が聞こえる』と怖がったものだが、最近は聞かないな」
お姉さまがいなくなってから、使用人たちも見えなくなったり聞こえなくなったりするなんて……。
きっと、絶対、関係あるに違いない。違いない、違いない。
お姉さまがいなくなっても、父と弟の能力は変わらなかった。
私だけが、見えなくなった。
私には幼い頃から祓う力があったけれど、まさか、見る力がなかったって言うの……?
お姉さまの能力で、見ることが出来ていただけなんて、本当に癪だった。
だけど、気づいてしまったのよ。
お姉さまが戻ってきてくれさえすれば――なにもかも元通りだってことにね。
* * *
「主さま! 灰音は追えんかった! 呪具の痕跡があって、そこでぱったりと途切れておる!」
「なんだと!?」
言ってから、斎は刀で大蛇の攻撃を防いで、飛び退いた。
後ろの茂みに寿々がやってくる。
「くそ、なんで今……!」
斎は、二体目の黒い影と対峙していた。――大蛇は、二匹いたのだ。後から現れたそれも、先ほどと同様にぼんやりとしか見えない。
灰音が走り去って、斎は追いかけようとしたが、もう一体に邪魔されてしまった。代わりに寿々を呼び出して後を追わせたのだが――こうしてひとりで帰ってきてしまった。
刀を構えながら、斎は息を整える。
「何回か当たっている感触はあるんだが!」
「こいつは結構素早いのぅ。今は様子を見とるようじゃ。……主さま! 右からじゃ!」
言うとおり刀を振ると、何かを切った感触。それから、
「ジャァーオォォッ!」
大蛇のうめき声がした。
黒い影は、ようやく燃える。いつもなら燃え尽きるまで見届けるが、斎は即座に寿々の方を振り返った。
「寿々! 灰音は……!」
「わからぬ。山を下った、もう少しで道というところで弾かれてしまったのじゃ。匂いを辿ることも出来んかった」
「…………」
斎は少し考えるような仕草をしてから、顔を上げた。
「寿々。お前、なにか聞いてるんじゃないのか?」
寿々は少したじろぎ、そして斎の顔をうかがい見るように言った。
「……主さま、あやつは悩んでおったのじゃ。妾にはどうすることも出来んくて……。じゃから……」
「わかった。行くぞ」
「えっ?」
「こんなところにいても、どうにもならないだろ。山を下りる」
「じゃが、一体どこへ……」
斎はさっさと歩き出してしまい、寿々はそのあとを宙に浮かびながらついて行った。
早足で歩きながら、正面を見たまま斎は寿々に話しかける。
「話してみろ」
「……実は……」
寿々は、最近の灰音について話し出した。
* * *



