鎮妖大祓から数日後。
鏡月院家へ、ひとりの来客が訪れた。
「鏡月院クイナさまでいらっしゃいますね」
「……誰ですの、あなた? ……ん?」
その顔立に見覚えがあり、クイナは目を細める。
やってきた少女は、笑みを浮かべて挨拶をした。
「私は甘露桜紅葉と申します。――鳳凰寺灰音の妹にあたります」
「そう……。道理で顔が似ていますのね。汚らわしいですわ」
「うふふ。そう仰らずに。まずは世間話からいたしましょう? 今年の舞姫はクイナさまだと思いましたのに、どうされたんですか?」
「……今年は分家の者が踊った。ただ、それだけですわ」
「ふふ。面白い」
紅葉は部屋へ入ると、クイナに近づいた。
「私、今日はあなたにとって良いことをお伝えしようかと」
「……いらないですわ。今、気分が悪いんですの」
「――斎さまに婚約破棄をされたのに、周囲にはまだ破棄されていないかのように言ってらしたって、本当ですか?」
「……はて、なんのことでしょう?」
「まだ、斎さまを取り返すチャンスがございます」
クイナは、怪訝な表情で紅葉の顔を見た後、顔を逸らした。
「そんなものありませんわ。所詮、親同士の決めた婚約など、本人の情の前では本当にただの紙切れですの」
「あの結婚に、情などあるものですか」
「……なんですって?」
クイナが食いついたのを見て、紅葉はにやりと笑うと、そっと耳打ちをする。
「実は……。…………」
「……!? まさか、そんな……!? 斎さまが……、見え……?」
「しっ! お静かに」
「……っ」
クイナは、言われたことを反芻する。
「……本当なんですの?」
「でなければ、あんな無能を娶るはずがありませんよ。一目惚れだなんて、ずっと怪しいと思っていたんです」
「……それなら、合点がいきますわ。あれも、これも、それも……」
「うっふふふふ! お気に召していただいたようで、なによりです」
「そんなの、鏡月院の呪具があれば、わたくしだってきっと……! いえ、元々はそういうつもりでわたくしが婚約者だったはず……!」
「そうですそうです、おそらくそうですよ」
「あの女さえいなければ……!」
クイナは、紅葉の顔を見た。
「あなた、紅葉と言いましたわね。なにか考えがあるのでしょう? 詳しい話を聞かせなさい」
「はい。クイナさま……♪」
ふたりの令嬢は、顔を見合わせてにやりと笑った。ふたりの顔は全く違う造形なのに、その表情はそっくりだった。



