斎が家に帰ると、灰音が出迎えた。
「お帰りなさいませ。今日もお仕事お疲れさまです」
「ああ……」
クイナに会うとは彼女に言っていない。
鎮妖大祓の後処理だと言ってある。……嘘ではない。
斎は懐から先ほど街で買ってきた小包を取り出すと、灰音に手渡した。
「これを」
「なんですか? これ……」
「今日見かけて、お前に似合うと思って買ってきた」
灰音がその小さな箱を開ける。中には、赤色のレースのリボンが入っていた。
鏡月院家からの帰り道、珍しいそれが目についたのだ。最新の流行とやらはよくわからないが、髪飾りとして人気があるらしい。そしてその柔らかな布地が、彼女の髪に似合うと思ったのだ。
「わたしには、派手すぎないでしょうか?」
そうは言いながらも、思った通り、灰音は目を輝かせている。
「そんなことはない」
斎は満足げに頷いた。
灰音は綻んだ顔を上げると、
「あ、あのっ。実はわたしも斎さまに贈り物があるんです」
「なに?」
「すぐに取ってきます」
と廊下の奥に消えていった。かと思うと、すぐに戻ってきた。
そして、細長い小箱を差し出した。
「これなんですけど……」
「これは?」
言いながら、開ける。中からは、万年筆が出てきた。
「あの、斎さまはいつも妖怪祓いの陣を描かれるときにペンとインクを使われるので、万年筆をと思いまして……。その、クイナさまには、インクの方がいいと言われたのですが……。わたしは、消耗品よりも、その……出来れば長く……」
クイナの名前が出て、斎のこめかみがピクリと動く。
(アイツ、灰音になんでもかんでも指図していたのか。本当に迷惑な……)
斎は万年筆を手に取ると、眺めた。
「良い品だ。……クイナの言うことは気にしなくていい。灰音が思うように自由にやってくれ。ちょうど新しい軸が欲しかったところだ」
「そ、そうですか……! 良かったです……!」
灰音の顔がぱっと明るくなる。
(……最近元気がないようだったから心配していたが、良かった)
――今回のことは自分の落ち度だと、斎は思っていた。まさかクイナがそこまで灰音に接触していたとは思わなかったのだ。
斎は万年筆を懐に入れると、ずっとリボンを眺めている灰音に言った。
「付けてみないのか」
「い、今ですか?」
「あ……いや、大変なら、いい」
女性の髪を整え直すのは、簡単ではないらしいことを思い出す。鏡もない場所で言ってしまった。
「今度でいい」
そう斎が言うと、灰音は少し考えて、今髪に付けているリボンの横に、レースのリボンを沿わせた。
「ど、どうでしょうか……?」
「……ああ。似合っている」
(こういうところが、可愛らしい)
自然と笑みが浮かび、斎は灰音の頭を撫でた。
「あの……? 斎さま……?」
「なんだ?」
「い、いえ……」
灰音は小さくなり、されるがままだ。
(俺が契約を持ちかけたのが、灰音で良かった)
斎は、この契約結婚に自分が満足していることを、認めていた。
「お帰りなさいませ。今日もお仕事お疲れさまです」
「ああ……」
クイナに会うとは彼女に言っていない。
鎮妖大祓の後処理だと言ってある。……嘘ではない。
斎は懐から先ほど街で買ってきた小包を取り出すと、灰音に手渡した。
「これを」
「なんですか? これ……」
「今日見かけて、お前に似合うと思って買ってきた」
灰音がその小さな箱を開ける。中には、赤色のレースのリボンが入っていた。
鏡月院家からの帰り道、珍しいそれが目についたのだ。最新の流行とやらはよくわからないが、髪飾りとして人気があるらしい。そしてその柔らかな布地が、彼女の髪に似合うと思ったのだ。
「わたしには、派手すぎないでしょうか?」
そうは言いながらも、思った通り、灰音は目を輝かせている。
「そんなことはない」
斎は満足げに頷いた。
灰音は綻んだ顔を上げると、
「あ、あのっ。実はわたしも斎さまに贈り物があるんです」
「なに?」
「すぐに取ってきます」
と廊下の奥に消えていった。かと思うと、すぐに戻ってきた。
そして、細長い小箱を差し出した。
「これなんですけど……」
「これは?」
言いながら、開ける。中からは、万年筆が出てきた。
「あの、斎さまはいつも妖怪祓いの陣を描かれるときにペンとインクを使われるので、万年筆をと思いまして……。その、クイナさまには、インクの方がいいと言われたのですが……。わたしは、消耗品よりも、その……出来れば長く……」
クイナの名前が出て、斎のこめかみがピクリと動く。
(アイツ、灰音になんでもかんでも指図していたのか。本当に迷惑な……)
斎は万年筆を手に取ると、眺めた。
「良い品だ。……クイナの言うことは気にしなくていい。灰音が思うように自由にやってくれ。ちょうど新しい軸が欲しかったところだ」
「そ、そうですか……! 良かったです……!」
灰音の顔がぱっと明るくなる。
(……最近元気がないようだったから心配していたが、良かった)
――今回のことは自分の落ち度だと、斎は思っていた。まさかクイナがそこまで灰音に接触していたとは思わなかったのだ。
斎は万年筆を懐に入れると、ずっとリボンを眺めている灰音に言った。
「付けてみないのか」
「い、今ですか?」
「あ……いや、大変なら、いい」
女性の髪を整え直すのは、簡単ではないらしいことを思い出す。鏡もない場所で言ってしまった。
「今度でいい」
そう斎が言うと、灰音は少し考えて、今髪に付けているリボンの横に、レースのリボンを沿わせた。
「ど、どうでしょうか……?」
「……ああ。似合っている」
(こういうところが、可愛らしい)
自然と笑みが浮かび、斎は灰音の頭を撫でた。
「あの……? 斎さま……?」
「なんだ?」
「い、いえ……」
灰音は小さくなり、されるがままだ。
(俺が契約を持ちかけたのが、灰音で良かった)
斎は、この契約結婚に自分が満足していることを、認めていた。



