「いらっしゃい。お待ちしてましたのよ。――どうぞこちらへ」
パーティーの翌日。
鏡月院家の応接間で、クイナは笑顔で椅子を勧めた。
部屋に入った斎は、椅子には座らず、立ったまま言った。
「クイナ。俺とお前は婚約破棄をしたはずだ」
「……わたくしは認めておりませんわ」
「お前がなんと言おうと、お前との婚約はとうに破棄した」
「なっ……!」
クイナはじろりと斎を睨め付けた。そこには、ただ腹立たしい――という気持ちだけだ。
そんな目で睨み付けられて、斎はさらに冷ややかな目でクイナを見た。
(前回は鏡月院の当主に話しただけだからな。最初からクイナにも釘を刺しておくんだった)
父がどういう魂胆でクイナと婚約を結んだのかは明白だ。鏡月院の能力増幅の呪具、それを巧みに操るクイナ――斎の目の問題を、この呪具によりカバーしようとしたのだ。だが、灰音と結婚した以上、この呪具は不要だ。権力と財力に固執するだけのクイナをそばにおく理由はひとつもなかった。
「先日灰音に嘘を吹き込んだと聞いた。当然、覚悟があってのことなんだろうな?」
「……ふん。今更ですの? ずいぶん前にお話しさせていただきましたけれど。今頃になってあなたに泣きついてきたなんて、ぐじぐじうじうじ、情けない女ですわ」
「なんだと?」
その日数だけ、灰音が苛まれたのだと思うと、腹がふつふつと煮立つようだった。
クイナは、斎に近づいて言った。
「……あんなぽっと出の小娘が良いなんて、おかしいですわ。わたくしは鏡月院。そして強い異能を持ち、呪具を扱うことが出来る。すべてにおいて、あの小娘より優れておりますのよ」
「お前が優れているだと? 見当違いだ」
「なんですって……?」
クイナは、つり上がった目を細める。その顔は、灰音とは大違いだ。
はじめは、合理的な提案だと思った。彼女の異能は役に立つし、助けが必要な彼女は秘密を漏らさないし、欲深い鏡月院に頼らずにすむ。良いことずくめだ。
だが、今はそれよりも……。
「灰音を泣かせたお前と、俺が結婚することはない。永遠にな」
「ちょっと、斎さま……!」
クイナが声を荒げる。
斎はそれを無視して背を向け、鏡月院家を後にした。
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