無能令嬢と祓い屋当主の契約結婚~契約で結ばれたわたしたちが、本当の夫婦になるまで~


 寿々に呪いを解いてもらってから、一週間が経った。
 朝日が差し込んでいるのに気がつき、灰音はゆっくりと目を覚ました。
 まず目に入ったのは、寿々の姿だった。

「お、起きたのかや?」
「寿々ちゃん。おはようございます」
「うむ。調子はどうかの?」
「大丈夫そうです」

 あれから――倒れてから三日ほど体が重かったが、四日目からは通常通り動けるようになっていた。それでも大事を取って休んでほしいと言われ、灰音は部屋で療養していたのだ。
 この一週間、灰音の部屋には寿々が入り浸り――いや滞在し、回復を助けてくれていた。
 一方で斎とはあまり会えていない。彼は日中は仕事などで家にいないことが多く、また灰音も不規則に寝ることを繰り返していたので、タイミングが合わなかったのだ。

「じゃ、妾が使用人を呼んできてやろう」

 寿々はぴょんと跳ねながら立ち上がると、廊下を駆けていく。元々、長く勤める使用人には寿々の姿が見えていたらしい。もし、今新しい使用人が来たなら、灰音のせいですぐに見えてしまうだろうが――現状は心配なさそうだ。

 やがて使用人たちがやってきた。お湯とタオルで体を拭いてもらってから、着物を着付けてもらう。
 部屋に運び込まれたお粥を食べ終わると、使用人たちは全員下がった。
 灰音は立ち上がり、窓辺に寄った。
 空は晴れており、庭に咲く紅梅の色を鮮やかにしている。

(今日までお仕事についていけなかったけれど、そろそろお役に立ちたい……)

 ――彼の目になると決めたのだ。

 そう決意を新たにしたとき、襖の向こうから斎の声がした。

「今いいか?」
「は、はいっ」

 灰音はうわずった声で返事をしてから、部屋の入り口へと向かった。
 襖が開き、斎が顔を覗かせた。以前と同様の黒い詰め襟に身を包んで、腰に刀を下げている。
 彼は部屋に入ると言った。

「あれから調子はどうだ?」
「はい。おかげさまで……。ありがとうございます」
「そうか。寿々から報告は聞いていたが……まぁ、本当のようだな」
「なんじゃとー? 妾が信用できんのかー?」
「ふん。俺は自分の目で見ないと納得しない」

 斎はそう言って、飛びかかる寿々を片手で押さえた。
 灰音は頭を下げた。

「あの、お仕事に必ずついていくという契約でしたのに、寝てばかりいてすみませんでした」
「いや。今週は妖怪祓いはしていない。別件の仕事だった。だが、今日は同行出来るか?」
「……! もちろんです。もうしんどくありませんし、ようやくお役に立てて嬉しいです」
「うむ。名医の妾から見ても、もう大丈夫じゃろう。問題ないぞ」
「そうか。では、行くぞ」
「あの、今からですか?」
「そうだ」

 そう言って斎は歩き出してしまう。
 彼はいつも突然だ。灰音は目をぱちぱちさせて、後に続いた。

「頑張るのじゃー!」

 後ろから寿々の声がして、灰音は振り返った。
 寿々は座敷童なので、屋敷からは出ないのだという。
 手を振る寿々に手振り返しながら、灰音は斎の後について行った。