栞が繋ぐ一行体験――3冊のページで、告白を完成させる

雨の踊り場で、遼の指に残っていた白い粉を見た瞬間から、頭の中のピースが「形」じゃなく「場所」へ落ち始めていた。

消しゴム粉は、持ち歩けない。
ついてくるけど、いつか落ちる。落ちる場所は、たいてい“そこでやった場所”だ。

返却ボックスの底で見つけた、白と黒の粉。
紙片。
剥がし跡の毛羽立ち。
そして今日、遼の指に残っていた粉。

(偶然じゃない)

遼は階段で言った。
「先に動くものを止めるには、先に消す」って。
守るために、記録から私の名前を消した――それが彼のやり方だった。

でも、やり方には必ず“癖”が残る。
消しゴムを握り潰す癖。粉を払う癖。
そして、粉が溜まる癖。

私が見つけた粉は、返却ボックスの底にあった。
返却ボックスは、誰も覗かない。覗くのは当番だけ。
昼休みや放課後、ひとがいる時間でも、あそこは「見えない場所」になる。

(遼が“消した”のは、返却ボックスの近く)

カードをいじるなら、本からカードを抜いて、消して、戻す。
その一連を、机の上でやれば見つかる。
準備室でやれば、先生の気配がする。
廊下でやれば、誰かが見る。

でも返却ボックスの影なら――
本を一冊、返却されたふりで抱えて。
蓋の陰でカードを抜いて。
消して。紙片が落ちても、粉が落ちても、底に吸い込まれる。

そして実際に、落ちた。
私の手に残った紙片は、そこから拾った。

(まだ残ってる)

あのとき拾えたのは、ほんの欠片だけだった。
凹みの残像だけが残る、ちぎれた端。
つまり、残りは“どこか”にある。

落としたなら、落ちた先は底。
でも、底って言っても、箱の「見えてる底」だけじゃない。

返却ボックスの底板は、二重になっている。
中の本が傷まないように、少し浮いている板。
角に埃が溜まりやすくて、当番でも掃除が届かない“隙間”がある。

消しゴム粉は軽い。
紙片は静電気で張り付く。
ちぎった細い紙なんて、風も水もなくても、隙間に吸い込まれる。

(最後の証拠は、返却ボックスの“底板の裏”)

そこなら、誰も拾わない。
そこなら、消した人が「捨てたつもり」になれる。
そこなら、残る。消そうとしても、残る。

私は机の上に栞を並べ直した。
37から、ちゃんと。
増えた途中――179。
そして最後――243。

ページの言葉は、遼の“理由”をくれる。
でも、先生たちを動かすのは、やっぱり“物”だ。
口じゃなく、手触りのあるもの。

(返却ボックスの底板の裏に、欠落した一行が残ってる)

それが見つかれば、確定する。
欠落が「紬」だったこと。
そして、欠落が“偶然”じゃなく、意図だということ。
意図があるなら、犯人探しじゃない。守り方の問題になる。

遼を、ただの犯人にしたくない。
でも、遼が一人で背負うのも許したくない。

だから私は、場所を特定する。
そして“触らずに”開けてもらう。

――明日、図書担当の先生に言う。
「返却ボックスの底板の裏を確認してください」って。
「そこに、最後の証拠が残っているはずです」って。

嫌われたと思った世界が、守られていた世界へ反転した。
なら次は、守り方を“二人のもの”に戻す番だ。

返却ボックスの底板の裏。
そこが、最後の証拠の場所。