栞が繋ぐ一行体験――3冊のページで、告白を完成させる

図書室を出た瞬間、空気が刺さった。
閉館後の校舎は、音が少ないぶん言葉がよく残る。
さっき掲示板に貼られた二枚目の紙の白さが、まだ目の裏に焼きついている。

佐伯先輩は、最後まで「必要」と言い切った。
先生に言う、と私が言っても、止めるとも撤回するとも言わなかった。
ただ、沈黙のまま背を向けた。
その背中が「明日、正式にする」という宣言みたいに見えて、喉が冷えた。

校舎の外へ出ると、校庭のライトがついていた。
部活の生徒はもういない。
照らされているのは、ただのグラウンドの土と、白いライン。
夜の校庭は広くて、広いのに逃げ場がない。

私は校庭の端のフェンス沿いを歩いた。
砂の匂いが、昼より濃い。
風が冷たくて、制服の袖口から入り込む。

(処分)

学年主任の言葉が、頭の中で反響する。
“学校は処分という形でしか動けないことがある”
そして佐伯先輩の告発文の最後。
“速やかに名乗り出るべきです”
――それは、処分へ向けた道を整える言葉だ。

今日の二枚目は、もう「噂」じゃない。
“状況証拠が揃いました”
“控え台帳”
“関係者の調査を求めます”
正しさの言葉で固めた文章は、先生たちが動く口実になる。

私はフェンスに手を置いた。
金属が冷たい。
冷たさが、現実を確認させる。

(明日、正式に)

佐伯先輩が「許可のもとで台帳を見た」と言った。
先生たちは、台帳を突き合わせる準備ができている。
なのに今日まで「調査中」のまま引き延ばしたのは、結論を“誰かの口”から言わせるためだ。
誰かが認めるのを待っている。
認めれば軽く済む――その誘導。

でも、認めたら遼が終わる。
私も終わる。
そして真実も終わる。

フェンスの向こう、校門が見える。
帰る生徒の姿はほとんどない。
この時間、校庭に残るのは、部活と、問題と、帰りたくない人だけだ。

私は息を吸った。
白くなる。
吐く。
また白くなる。

白い息が消えるみたいに、私の名前も消されかけている。
貸出カードからは削られ、告発文には貼られ、噂には擦り込まれる。
残り方が、選ばれている。

(なら、私も選ぶ)

“軽く済む”方じゃなく。
“終わらせる”方を。
照合で、終わらせる。

私は鞄の中のノートの重さを確かめた。
栞の束。
37、112、58、201、243。
ページの順番は噛み合い始めている。
欠落日と本も一致した。
台帳で照合すべき問いも作った。

明日、正式に。
処分の匂いが濃くなるなら――
明日が、私の「正式な反撃」になる。

(先生の前で、言う)

欠落日は2/13・2/14・2/15

該当書籍は『透明な余白』『規則と告発』『同じページの合図』

栞のページ番号が一致している

返却ボックスに鉛筆粉と紙片があった

台帳(控え)と照合すれば、借り手名が確定する

そして――その借り手が誰であっても、私は削っていない

言う。
言い切る。
そして、遼の名前を守る残し方を、私が選ぶ。

校庭の真ん中にある白いラインが、ライトの下でまっすぐ伸びている。
私はその線を見つめた。

まっすぐな線は、嘘をつけない。
曲げようとした人がいれば、その痕跡が残る。

(明日)

処分の匂いが濃いなら、尚更。
私は明日、まっすぐ立つ。

フェンスから手を離し、校門へ向かった。
足音が、砂を鳴らす。
その音が、怖さの代わりに決意の形になっていく。

明日、正式に。
――だから今日、私は折れない。