栞が繋ぐ一行体験――3冊のページで、告白を完成させる

放課後、家に着いても、私はすぐに鞄を下ろせなかった。
玄関で靴を脱ぎながら、頭の中で数字が並び替わっていく。

37。58。112。201。243。

ページ番号はただの数字のはずなのに、私にとっては道しるべだった。
そして今日、その道しるべが“順番”を持ちはじめている気がした。

部屋の机にノートを広げ、栞を一枚ずつ並べる。
白い紙片が、机の上で小さな地図みたいに整列する。
私はスマホのメモを開いた。昨日書いたやつ。

欠落一行:2/13、2/14、2/15

『透明な余白』P.37 / P.112

『規則と告発』P.58 / P.201

『同じページの合図』P.243

そこで、ふっと思い出す。
貸出カードの空白には、日付だけが残っていた。
消されたのは名前だけ。日付は消されていない。

(……日付は残したかった?)

私は机の上で鉛筆を転がし、思考を止めないようにした。
いま私ができるのは、触れない記録を“繋ぐ”ことだけだ。

まず、欠落日を横に並べる。

2/13(木)

2/14(金)

2/15(土)

そして本の方を、遼が“ページで答えた順”じゃなく、最初に出てきた順に並べる。

最初に渡されたのは、37(『透明な余白』)。
次に見つかったのが、58(『規則と告発』)。
次に封筒で来たのが、201(『規則と告発』)。
返却本で来たのが、112(『透明な余白』)。
棚の奥で最後みたいに置かれていたのが、243(『同じページの合図』)。

……違う。
遼は「37から、ちゃんと」と言った。
つまり、遼の中での“順”は、私が拾った順じゃない。

私はページの内容を思い出しながら、順番を組み直す。

37:そこから始まる

112:黙ることで守る、みたいな

201:記録の残り方は選ばれる

58:まだ読んでない(でも“練習”みたいに置かれた)

243:最後に行く、の気配

ここで、胸の奥がざわっとした。
遼が「番号、増える」「最後に、行く」と言った。
つまり、増える番号は“途中”で、最後に行くのが243。

なら、遼の導線はこうだ。

37 → (途中が増える) → 243

途中に増えたのが、112と201。
そして“途中”のもう一つとして、まだ開いてない58がある。

私はふと、欠落日と“最初の番号”の関係を見た。

欠落が確認できた本は三冊。
欠落日も三日。

『透明な余白』:欠落(2/13)+最初の栞(37)

『規則と告発』:欠落(2/14)+最初の栞(58)

『同じページの合図』:欠落(2/15)+栞(243)

……噛み合う。

偶然なら、ここまで綺麗に揃わない。
私が指先で感じた“整いすぎる違和感”が、今度は“整いすぎる一致”に変わっていく。

つまり。

欠落している一行=その日に、その本を借りた“誰か”がいた。
そして、その“誰か”は、栞でページを示す人。

遼しかいない。

私は急に、息が浅くなるのを感じた。
遼は、借りた。
借りて、ページを選んだ。
栞を挟んだ。
そして――名前を消した。

(私のため? それとも……)

答えが出そうで、出したくなくて、私は机の端を握った。
掌に力を入れると、現実に戻れる。

でも、もう一つだけ、確かめたいことがある。

欠落日が木・金・土で、遼が一瞬現れたのが“昼休み”。
その“時間のズレ”が、逆に現実的だった。
放課後に削るなら、図書室は閉まる。昼休みなら、人がいる。
人がいるから、逆に誰も返却ボックスの底なんて見ない。

返却ボックスの鉛筆粉。紙片。
削る作業の残骸。

――全部、一本の線になり始めている。

私はスマホのメモに、追記した。

欠落日=最初の栞の本と一致

欠落者=栞を挟む人物(遼の可能性大)

先生に“控え台帳で照合”を依頼すべき:2/13『透明な余白』、2/14『規則と告発』、2/15『同じページの合図』

書き終えた瞬間、胸の奥が少しだけ静かになった。
私は“疑い”を形にしたんじゃない。
“照合できる問い”に変えた。

遼の言葉が、遅れて胸に戻ってくる。

「巻き込まれなくていい」

違う。
巻き込まれたくないのは、遼の方だ。
自分の名前を消してでも、私の名前を“守る残り方”に変えたかったのかもしれない。

私は栞を、もう一度順番に重ねた。
37を一番上に置く。
その上に、増えた番号――112、201、58。
最後に、243。

紙の束が、軽いのに重い。
恋が進むって、こういうことなのかもしれない。
相手の“理由”に近づくほど、胸がほどけるのに、ほどけた分だけ痛い。

明日、私は先生に言う。
“台帳で照合してください”と。
そして、ページを開ききる。

遼が残した順番と、遼が消した名前が、完全に噛み合ったとき。
世界は、反転したままじゃいられない。