正直に言えば、あれは一目惚れだった。
高校の入学式で人の多さに圧倒されながら、体育館の入口付近で立ち尽くしていた俺の視界に、ひときわ目を引く存在がいた。
整いすぎた顔立ちに、やけに落ち着いた佇まい。
周囲と同じ制服を着ているはずなのに、まるで別の場所から切り取られてきたみたいだった。
──香坂 花埜
後で知った名前だ。正直に言えば、はじめは近寄りがたい、と思った。 というより、誰もがそう思っていたんだと思う。
実際、周囲の視線は集まっているのに、誰も声をかけていなかった。
だから俺は、深く考えずに声をかけた。
「同じクラス?」
本当にそれだけで、特別な言葉なんて何もない。なのに花埜は、一瞬驚いた顔をしてから、ふっと笑って頷いたのだ。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥が変な音を立てた。
ああ、これだ。理屈じゃなかった。 その日から、花埜のことを目で追うようになった。
一緒に帰るようになって、昼休みに他愛もない話をして、テスト前にノートを見せ合って。
特別なことなんて、何もない。 でも、日々を重ねるたびに、俺の中の感情は確実に大きくなっていった。
それが恋だと自覚したのは、ずっと後だ。気づいたときには、もう手遅れなくらい彼を好きになっていた。
だから、高校の卒業式の日、俺は決めていた。告白しよう、と。
式が終わったら写真を撮る流れの中で、最後に二人きりになれたら。そう思って、何度も花埜の姿を探した。
けれど──彼はどこにもいなかった。教室にも。体育館にも。校門の前にも。
誰に聞いても、「見てない」と首を振る。
胸が嫌な形でざわついた。
その日を境に、彼との連絡は目に見えて減っていく。忙しいのだろう、と自分に言い聞かせていたけれど、やがて既読すらつかなくなった。
理由は聞けなかった。聞く勇気も、失う覚悟もなかった。
ただ、完全に音信不通になることはなく、テレビをつければ、花埜はそこにいた。
笑って、話して、「王子様」なんて呼ばれて。
無事なのも、元気そうなのも、わかった。
それだけで少しだけ安心して、そして同時に、どうしようもなく遠くなった気がした。
それでも、俺は花埜を諦められなかった。
高校時代、勢いで出たミスターコンで賞を取ったこと。その縁を辿って、俺はアイドル事務所に所属した。
正直、簡単な道じゃなかった。
大学一年から、練習生として必死に食らいついた。ダンスも、歌も、演技も、全部が全部中途半端だった。
何度も、心が折れかけた。
それでも続けられたのは、どこかで彼に届くかもしれない、と思っていたからだ。
そして──ようやく、デビューが決まりかけた頃。事務所から、話を持ちかけられた。
「恋愛リアリティーショー、出てみない?」
急遽、欠員が出たシーズン。知名度を上げるには、ちょうどいい、と。
断るつもりだった。俺は彼好きだから他の誰かと恋愛する気なんて、なかった。
──参加者に、香坂花埜がいる。
その一言で、全部がひっくり返った。
迷いはあったが、それ以上に恐怖が勝った。もし、香坂が誰かとカップル成立したらそれを、何もせずに見送ることになる。それだけは、耐えられない。
だから俺は番組に参加した。
当然、男女の恋愛リアリティーショーだということは、知っていたけど、彼を守りたかった。 正確には──奪われたくなかった。
一日目から、手紙を書き続けても名前は書かなかった。番組上のルールなのはそうだが、一番の理由は怖かったからだ。
でも、言葉だけは本心だった。
彼は姫川さんと仲が良さそうだから、それを見るたびに胸が締め付けられた。
俺は、間違えたんじゃないか? 好きな人が自分じゃない誰かと恋愛していく過程を、間近で見るためにここに来たんじゃないか?
何度も、そう思った。それでも、逃げなかったのは──花埜本人が俺の話を、真剣に聞いてくれたからだ。
「応援してくれるか?」
あんな情けない相談を、真正面から受け止めてくれるとは、思っていなかった。
彼は本気で俺の恋を、俺以上に大切にしようとしてくれた。
その姿を見て、最後にちゃんと伝えようと決めた。
番組が壊れても、自分の立場がどうなっても。
それでも、高校の卒業式で言えなかった言葉を今度こそ彼に向けて言おう、と。
あのざわめきの中で、俺はようやく過去から一歩、前に進めた気がしていた。
高校の入学式で人の多さに圧倒されながら、体育館の入口付近で立ち尽くしていた俺の視界に、ひときわ目を引く存在がいた。
整いすぎた顔立ちに、やけに落ち着いた佇まい。
周囲と同じ制服を着ているはずなのに、まるで別の場所から切り取られてきたみたいだった。
──香坂 花埜
後で知った名前だ。正直に言えば、はじめは近寄りがたい、と思った。 というより、誰もがそう思っていたんだと思う。
実際、周囲の視線は集まっているのに、誰も声をかけていなかった。
だから俺は、深く考えずに声をかけた。
「同じクラス?」
本当にそれだけで、特別な言葉なんて何もない。なのに花埜は、一瞬驚いた顔をしてから、ふっと笑って頷いたのだ。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥が変な音を立てた。
ああ、これだ。理屈じゃなかった。 その日から、花埜のことを目で追うようになった。
一緒に帰るようになって、昼休みに他愛もない話をして、テスト前にノートを見せ合って。
特別なことなんて、何もない。 でも、日々を重ねるたびに、俺の中の感情は確実に大きくなっていった。
それが恋だと自覚したのは、ずっと後だ。気づいたときには、もう手遅れなくらい彼を好きになっていた。
だから、高校の卒業式の日、俺は決めていた。告白しよう、と。
式が終わったら写真を撮る流れの中で、最後に二人きりになれたら。そう思って、何度も花埜の姿を探した。
けれど──彼はどこにもいなかった。教室にも。体育館にも。校門の前にも。
誰に聞いても、「見てない」と首を振る。
胸が嫌な形でざわついた。
その日を境に、彼との連絡は目に見えて減っていく。忙しいのだろう、と自分に言い聞かせていたけれど、やがて既読すらつかなくなった。
理由は聞けなかった。聞く勇気も、失う覚悟もなかった。
ただ、完全に音信不通になることはなく、テレビをつければ、花埜はそこにいた。
笑って、話して、「王子様」なんて呼ばれて。
無事なのも、元気そうなのも、わかった。
それだけで少しだけ安心して、そして同時に、どうしようもなく遠くなった気がした。
それでも、俺は花埜を諦められなかった。
高校時代、勢いで出たミスターコンで賞を取ったこと。その縁を辿って、俺はアイドル事務所に所属した。
正直、簡単な道じゃなかった。
大学一年から、練習生として必死に食らいついた。ダンスも、歌も、演技も、全部が全部中途半端だった。
何度も、心が折れかけた。
それでも続けられたのは、どこかで彼に届くかもしれない、と思っていたからだ。
そして──ようやく、デビューが決まりかけた頃。事務所から、話を持ちかけられた。
「恋愛リアリティーショー、出てみない?」
急遽、欠員が出たシーズン。知名度を上げるには、ちょうどいい、と。
断るつもりだった。俺は彼好きだから他の誰かと恋愛する気なんて、なかった。
──参加者に、香坂花埜がいる。
その一言で、全部がひっくり返った。
迷いはあったが、それ以上に恐怖が勝った。もし、香坂が誰かとカップル成立したらそれを、何もせずに見送ることになる。それだけは、耐えられない。
だから俺は番組に参加した。
当然、男女の恋愛リアリティーショーだということは、知っていたけど、彼を守りたかった。 正確には──奪われたくなかった。
一日目から、手紙を書き続けても名前は書かなかった。番組上のルールなのはそうだが、一番の理由は怖かったからだ。
でも、言葉だけは本心だった。
彼は姫川さんと仲が良さそうだから、それを見るたびに胸が締め付けられた。
俺は、間違えたんじゃないか? 好きな人が自分じゃない誰かと恋愛していく過程を、間近で見るためにここに来たんじゃないか?
何度も、そう思った。それでも、逃げなかったのは──花埜本人が俺の話を、真剣に聞いてくれたからだ。
「応援してくれるか?」
あんな情けない相談を、真正面から受け止めてくれるとは、思っていなかった。
彼は本気で俺の恋を、俺以上に大切にしようとしてくれた。
その姿を見て、最後にちゃんと伝えようと決めた。
番組が壊れても、自分の立場がどうなっても。
それでも、高校の卒業式で言えなかった言葉を今度こそ彼に向けて言おう、と。
あのざわめきの中で、俺はようやく過去から一歩、前に進めた気がしていた。



