「ひとまず、シュートなんて入ればこっちのもんだからフォームなんて自分のやりやすいようにでいいと思う。あとは基礎的な動きをちょっと練習するくらいでいいよ、たぶん」
「えらい雑だな」
小野寺くんの冷静なツッコミに「だって時間もそんなにないし」と苦笑いを浮かべる。
宮瀬くんのやる気で、お昼休みと放課後に集まって練習をすることになった。放課後は体育館は部活をやっているのでグラウンドの隅で少し練習して20分ほどで解散だ。
律儀に全員体操服に着替えて練習をしている。
「田中くん、ドリブル上手だね」
「そ、そう、かな…でもボールをつきながら走るってのがどうも難しいかも」
「最初は難しいから、まずこうやって」
外用のボールが数回地面を叩く。同じ場所で模様を作った。右手と左手に順番にボールが離れたり、ついたり。
「自分が思うところにこうやってボールが着く、離れる、そんで一定のリズムでドリブルができるようになれば、ボールに慣れてくると思う」
「おお、プロっぽい」
「いやいや、俺、そんなに上手くない…」
いまだにベンチ係だったとは言っていない。完全にタイミングを逃してしまった。
「影井!田中ばっかり教えてないでこっちにも教えろよ」
「宮瀬くん、分かった分かった」
ボールを抱えて宮瀬くんと隣にいる小野寺くんの方に駆け寄る。
「2人は元々運動神経いいから、そんなに言うことないんだけどな…」
「そんなこと言うなよ、このチームは影井が頼りなんだから」
宮瀬くんの手がぽんっと自分の肩にのった。
心許ない「頼り」だ。自分自身でもそう思う。ただ、誰かに期待されること自体に嫌悪感はなかった。むしろ必要とされていることが純粋に嬉しいと思った。
なんとも言えないむず痒さを感じながらも、「パス練習、2人でやってみて」などと偉そうに言ってみた。
2人が投げるボールを右から左へ左から右へぼんやりと眺める。
「……」
ちゃんと体操着にも着替えて来るのになぜ、彼は参加しないのだろう、とふと気になって少し離れた先でボールを地面に置いたまま座っている彼に視線をやった。
「気にしてんじゃない」
「え?」
器用にボールを宮瀬くんの方に両手で投げながら、言葉を放った小野寺くんを見る。
気にする?何を。
「あの心理テストのことだよ」
ああ、と思い出された出来事。そういえばそうだった。俺と才野くんの間では解決したことではあるが、小野寺くんたちにとっては才野くんは俺のことを『嫌いな人』として認定している、と、思っている。
綺麗に胸のあたりで受け取ったボールを両手に小野寺くんが一歩俺に近づいた。
「この球技大会で仲良くなれればと思ったけど、お前ら溝深そうだな」
周りに気を遣ってか、こそりと声を顰めてそう言った小野寺くん。「おーい、何してんだよ」と宮瀬くんの大きな声が聞こえたが小野寺くんはそれを華麗に無視。言葉を続ける。
「なんで嫌われてるのかとか、検討つかないの」
「いや、えっと、それはその、嫌いとかそういうのじゃ」
「こういう時は歩み寄りだよ影井、ほれ行ってこい」
なんだこの人、話聞かない。
背中に手を置かれ、前に押し出される。
後には引けず、ぎゅっとバスケットボールを握ったままゆっくりと才野くんに近づいた。
才野くんは、目の前に立った俺を見上げて「なんだよ」と一言放つ。
なんだよ、と言いたいのはこちらだ。なぜそんなにこわい目をしているのだろう。
「なんで、練習参加しないんだよ」
「…だるいから」
「そ、んな、律儀に体操着に着替えてだるいって何言ってんの。そもそも才野くん」
ーーー経験者じゃないのかよ。
と、その言葉は出なかった。
才野くんがこちらに手を伸ばしたから。
「…なんだよ」
「手」
「なんで?」
「立つのだるいから」
「じゃあ座ってればいいじゃん」
「…練習、参加しなくていいのかよ」
無言になった俺に、才野くんが「ん」と伸ばした腕を揺らす。ため息をついた。分からない、才野くんのことがさっぱり分からない。理解不能だ。
投げやりに手を掴んで引っ張り上げようとしたが、
「ーーっ!」
才野くんの方が幾分か力が強かった。
身が前に落ちる。
地面にコロコロとバスケットボールが転がっていった。
地面に手をついたが、顔や上半身に衝撃が少なかったのは才野くんが自分を受け止めるような体勢になったからだった。
「っ、ぶないなあ、何す」
少し体を起こして文句の1つでも言おうかと思ったが、言葉が止まった。至近距離に才野くんの顔があった。
才野くんは表情を変えない。まるでこうなることが分かっていたみたいに。
「…何、話してたんだ」
「え?」
「さっき、小野寺と何話してた」


