ぼうっとする頭を冴えさせるために外に出た。
平日ということもあってか、大きめな公園にも誰もいない。
ベンチに座り、背を預けたまま視界の先にあるバスケットゴールに瞳を向ける。
「月?」
名前を呼ばれた。公園に入ってきて自分に近づくと「月!」と再度名前を呼んで目の前に立った女。久しぶりにその名前を呼んだ。
「あかり」
「何やってんの?学校は?」
「そっちこそ」
「今テスト期間中」
「へえ」と返事をする。久しぶりに会った幼馴染だったが、気を遣う余裕などなかった。
あかりの鞄には、バスケットボールのストラップが揺れている。
ああ、影井に会いたい。影井の過去を知ったあの日から、まともに話していない。
テスト期間が始まってしまい、放課後のあの時間もなくなった。
「元気?」
「…に見える?」
「見えない、どうしたの?風邪?」
「まあ、そう」
あかりは「大丈夫?」と心配そうな顔をして俺の隣に座った。反射的にベンチの端の方に寄って距離を取った。あからさまに傷ついたような顔をされる。
「この前三鷹くんに会ったんでしょ」
「…」
何も返事をしない俺にあかりはため息をつく。
「三鷹くんからうちの高校に転校してこいだのなんだの言われたんでしょ?ねえ、ちゃんと説明してるの?月がもう…」
あかりの言葉が詰まる。何が言いたいのかはすぐに分かった。
「もうバスケができないことは伝えてる」
「でも球技大会でダンク決めたんでしょ」
なんで知っているんだと顔を顰めれば、スマホを取り出したあかりが画面を俺に見せてくる。
「動画、まわってきた」
久々に見た自分のバスケ姿。思っていたより遅いし、思っていたより飛べていない。それはそうだ、もう自分の足は思うように動かない。
そして誰が撮ったかも分からない動画が自分の知らないところで勝手に拡散されている、嫌悪感で吐き気がした。
元々痛かった頭がより重さを感じて膝に肘をついて両手で額をおさえる。
「…ふざけんなよ」
「月は、どこにいっても話題になっちゃうね。イケメンって大変」
どこか他人事のようにそう言ったあかり。
もうこの場に留まりたくなくなり、ため息をついて立ち上がった。
「三鷹くんには、私から説明しておくから」
「ああ、ありがとう。優秀なマネージャー」
軽く笑ってそう言うと、あかりはまた傷ついた顔をする。嫌味に受け取ったのだろうがそんなことはどうでもいい、とあかりに背中を向けた。
「待って」
あかりの手が自分の腕を掴む。静かに振り返ると、あかりは泣いていた。なぜ泣くのかわけがわからない。
「わ、私は、バスケをしてない月でも、側にいたいって思ってるよ」
あかりから何度か気持ちを伝えられたことはある。
「部活以外興味ない」「あかりにそういう感情はもてない」と返してきた。
幼馴染だから、マネージャーだから、それだったら側にいてもいいでしょ、といつもあかりは言う。
あかりの手をゆっくりと離すように下におろす。
「好きなの、月のこと。やっぱり諦めきれない」
ああ、俺も影井にこうやって言えたら何か変わるのだろうか。
熱のせいで正常に働かない頭で考える。簡単なことなのに、言えない「好き」という言葉。
傷つけないように、いや、自分が傷つかないように影井を都合よく扱っている気がして自分が自分で嫌になった。
俺の腕を掴んだあかりが「好きなの」とまた言った。
そして背伸びをして、自分に近づいた。
「…っ、ごめん、好きな人がいる」
寸前のところであかりの口を手で覆う。
離れていったあかりの顔が歪んだ。俺の放った言葉を上手く飲み込めず、「月に、好きな人?」と理解できない様子だった。咄嗟に放った言葉だったが、訂正はしない。俺は、影井が好きだ。
「才野くん?」
後ろから聞こえた声。1番聞きたかった声のはずなのに、その声は軽蔑を帯びていて。
振り返った先にうつった姿。熱で都合のいい幻覚でもみているのかと思った。


