「お待たせしました、パフェとホットコーヒーです」
テーブルに運ばれたそれらを柴田が「写真とるからまって」と食べるのを止められている中、隣の才野くんを見る。
「ごめん、才野くん」
「何が」
「き、今日用事あったのに、こんなことになって」
そう言うと、才野くんは小さく笑った。
「用事終わったし、偶然でも会えて良かった」
さらりとそんなことを言うもんだから、顔に熱がたまっていく。言わせたみたいになってしまっていないだろうか。足りないと本能的に考えてしまっていた『糖分』が少し、満たされたような感覚。気のせいだ!と打ち消す。
「仲良いんだな、お前ら」
「え?」
「写真取り終わったから、どうぞ」
柴田が片手を差し出してそう言う。先ほどの会話が聞こえてしまっていた。写真に夢中で絶対耳に入っていないと思ったのに。
パフェ用のスプーンを手に掴んで生クリームを掬う。
「そういや、水族館も一緒にいたよな」
「あれは球技大会のバスケメンバーで行ってて」
「知ってるよ、けどあの空間にはお前ら2人だったろ?沙織ちゃんが猪突猛進してくるまでだけど」
口に入れた甘さが広がっていく。柴田が思い出したように才野くんを睨んだ。沙織ちゃんというワードでスイッチが入ったようだ。
「才野」
「なに」
「沙織ちゃんをどうやっておとしたんだ、そしてなぜ振った、俺はなぜ沙織ちゃんに振られたんだ」
「知らない」
才野くんは一言で柴田の全ての質問を片付けると、コーヒーをまた一口飲んだ。絵になるその姿に周りが「ほう」と見惚れている。
本人は、何も気にしていない様子が柴田の嫉妬心を煽っていく。
「いいよな、モテるやつは何してもちやほやされんだから、なあ影井!って言いたいけど、お前どっちかといえば才野側だよな」
「は?」
まさか自分に話を振られると思っておらず、少しむせた。柴田は「だってよ」と言葉を続ける。
「影井、鈍感だから中学時代とかほとんど気づいてなかったけどモテてたよ」
カチャン、と音がした。才野くんがコーヒーカップを皿にぶつけるように置いた音だった。
「い、いやいや、モテてないし」
「だからお前は気づいてなかっただけ」
柴田が持っているパフェ用の少し長めのスプーンが俺に向く。そして力なくパフェの生クリームをつつく柴田。
「はあ、俺のモテ期はいつくるんだろうなあ」
そんなことを言いながら上に乗っている果物を一口食べる。才野くんが頬杖をついて柴田を視界に入れた。
「柴田は?」
「ん〜?なにが?」
「柴田は、影井のこと好き?」
思いきしむせたのは俺の方だった。柴田が驚いたように顔をあげてそして眉間に皺を寄せる。
そして瞳を上にしてその言葉を真意を考えるような沈黙が生まれた。
「才野さ、どういう答えを求めてるわけ?」
「君が入れ知恵した心理テストでいうと、AかBかC、どれにはいんのかって話」
ど、どういう会話だ、これ。
柴田が「へえ」と笑って、俺の方をみた。なんだよ。
「断然、Bだな」
その答えに、才野くんは静かに背もたれに背を預けた。コーヒーを飲む。Bは友達。よかった、柴田の中で俺の名前がAかBに入るということが分かって純粋に嬉しい。
「安心した?」
その質問はなぜか才野くんの方に向けられている。
才野くんは返事をせず視線を外にはずした。
才野くんの横顔を見つめていると、テーブルの上に置いていた手の甲に何かが落ちてきて視界を戻す。
「うわっ、溢れた」
山盛りになっていた生クリームがバランスを崩して俺の手に落ちていた。
「なにやってんだよ影井、早く食わないから!」
「ご、ごめん、ひとまず拭くもの」
そう言って腰をあげた時には、才野くんは近くの店員さんをつかまえて「拭くものを」と頼んでくれていた。
「ありがとう才野くん」
「手、洗ってくれば」
「う、うん」
立ち上がって小走りでトイレに向かった。
俺はいつもこうだ。大事な時にやらかす。もっと、才野くんのことをききたかったのに。
1人になった空間で、流れている水に手を当てながらふと顔をあげた。
顔がほんのりと赤い。
才野くんと話す時、俺は毎回こんな顔をしているのだろうか。
それに気づいてしまうと、これから先あの瞳を真正面から見られなくなりそうだった。


