学校イチのイケメンに心理テストしたら好きな人が俺だった


今日はきくことはないと思っていたその名前。

「え?」

「いやまじ才野のだって」

柴田が俺の肩をもって「見てみろよ」と体を向けさせる。わ、まじだ。
思わず体が硬直した。

車が走っている道を挟んで向かい側に才野くんがおり、誰かと歩いている。

「なあ、あれ隣にいる男、違う高校のやつだよな」

「…うん」

「なんか、険悪っぽいけど」

確かに。才野くんはいつもの冷静さを保っているように見えるけれど、隣の男は才野くんの肩を掴んで少し前にでると、険しい顔で何か言っている。
そしてその男が手に持っているそれ。

「バスケ部だ」

そう言うと、柴田が「本当だ」と頷く。
男が手に持っているのは、シューズを入れている四角い布袋で、そこには小さくバスケットボールのマークがついていた。

男が怒りをそのままに、才野くんの肩を後ろにおすと、才野くんの体が容易く後ろに下がる。

才野くんが小さく口を開いて、何かを言った。男が才野くんの胸ぐらを掴む。

「あ」

「やばいな、止めにいこう影井」

前に出た体、歯止めを一瞬きかせた俺に、柴田が躊躇なく俺の腕を掴んでスタートダッシュをきった。

近くの横断歩道を走って渡る。才野くんの存在が鮮明に瞳に映っていく最中、男の振り上げた拳はまだ才野くんにぶつかっていない。

「才野くん!」

名を呼べば、才野くんの瞳が俺をうつして驚いたように開いた。

「…影井?」

「なんでここに?」という表情で見つめられる。

「何か揉め事?ひとまず離れよ、はい拳おろして」

柴田が間に入り、諌めるように才野くんに拳を振り上げていた男の前に立った。

「誰だよお前ら」

男が睨みつけるように俺たちにそう言う。
才野くんの方をみると、少し戸惑ったように俺の方を見ていた。学校から遠く離れたこの場所で、いつもなら視聴覚室にいるこの時間に出会ってしまったというよく分からない現実。どういう状況?というのは俺も同じ心情だ。

「制服みりゃ分かんだろ、才野、くんと同じ学校の同じ学年の……なんかそういうやつだよ」

「友達」とまでは到達していない、というか、柴田にとっては才野くんは最近まで『敵』だったためあやふやな言葉で濁された。

男は「けっ」と笑って、才野くんの方に視線を向けた。

「落ちぶれたな才野、ある意味安心したよ
こういう生ぬるい連中とつるんで、せいぜいのんびりやれや」

「三鷹」

三鷹、と才野くんに呼ばれた男は眉間に皺を寄せて柴田を押しのけるとそのまま才野くんに近づこうとする。また殴りかかってくるんじゃないかと、俺は才野くんの前に鞄という壁をつくった。
男はその鞄に視線を落とす。

「…なんで、こいつがそれ持ってんの」

そう言われ、男の視線の先を追いかけるように瞳を落とす。ストラップだ。
え?と顔を上げると、男は真っ直ぐと才野くんを見つめていた。

才野くんは、前にある俺の腕を優しい力で下におろしたあと一歩、男に近づいた。

「…もう、必要ないから」

「ふざけんなよ、お前」

「三鷹、前にも言ったけど俺は、」

「ききたくねえ、もういいわ一生顔見せんな」

男は吐き捨てるようにそう言って、振り返ることなく歩いていった。
このストラップの存在を知っているようだったけれど、俺が会った『あの人』はあんな弱い部分を暴言や暴力で表面に固めているような雰囲気じゃなかった気がする。

もっと、絶望を絶望として飲み込んでいるような。

ぱっと才野くんの方に顔をあげれば、才野くんは俺の視線をから逃れるようにその瞳を外した。
まさか。

「才野く」

「なんでここに?」

遮るように放たれた冷たい声。柴田に助けを求めると、柴田はへらりと笑った。

「ここの近くに最近できたカフェあるだろ?そこに影井とこれから行くんだよ、よかったら才野、くんも…いや行かないよな!うん大丈夫!よし、じゃあ解散、行こう影井!」

「…行く」

「行くの!?」

「行くの?」

柴田と俺の声が重なった。絶対「あ、そう、いってらっしゃい」と流されて終わりかと思った。以前の水族館のことが脳裏をよぎる。
「影井が行くからって感じだったよな」と小野寺くんの声がリピート再生される。
自惚れすぎだ。




「パフェ2つとホットコーヒー1つですね、少々お待ちください」

店員さんがさった後おしゃれな雰囲気の中に流れる気まずい時間。
俺の隣には才野くんが座っている。周りに座っているお客さんたちが才野くんをみて少し騒いでいた。
才野くん、やっぱりこういうところに来ても注目されるんだ。
なんて思っていると、俺の正面に座っている柴田が少し身を前に乗り出した。

「逆ナンされるかな、才野の人気にあやかって声かけられたら俺も連絡先交換しちゃおう」

「柴田…」

「それにしても」

と、柴田が才野くんの方を見る。

「才野、くんは、家がここら辺なのか?」

「…ああ」

「学校からえらい遠いな、通学大変だろ」

「慣れた」

「ふうん」

会話が終了してしまい、柴田が助けを求めるように俺を見る。ききたいことなんて山ほどある。
先ほどのことやらストラップのことやら。

でも、なんとなく、今じゃないような。

「さっきのイカつい男って、友達?」

柴田がぶっ込んだ。才野くんの瞳が少し揺れる。

「…中学の時に同じ部活だったってだけ」

「ああ、バスケ部ね」

「柴田、才野くんがバスケ部だったの知ってるの?」

「まあ当時、注目選手だったもんな」

え、そうなの。と、才野くんの方をみれば才野くんは自分のことなのにそうじゃないみたいに水を一口飲んだ。でも、球技大会のことを思い出せば頷ける事実だ。
俺が知らなかったのは、俺自身が当時周りを見れるほど余裕がなく、ずっと下を見ていたから。
今更ながら恥ずかしくなった。もう、経験者などとのたまうのは絶対にやめよう。

「才野、くんはさ」

「いいよ、才野で」

「才野はさ、なんでバスケ辞めたの?」

柴田が頬杖をついてそう言う。沈黙が走った。
柴田のまっすぐなこういうところは純粋に尊敬する。
俺は色々考え込んで、結局自分の言いたいことなんて言えずに愛想笑いして誤魔化してきた。
だから、痛い目をみてきた。せめて、才野くんの言葉を聞き逃さないように顔をあげて才野くんの方をみる。

「…怪我」

「怪我?復帰もできないわけ?」

柴田の問いに才野くんは小さく息を吐く。

「できない」

放たれたその言葉。やはり、このストラップは才野くんのものなのかもしれない。
だけど、それを聞いてしまえばあの絶望をまた彼に与えてしまうのではないかとこわくなった。

才野くんのものだとして、才野くんがそれを俺に言ってこないのは、思い出したくない過去だから。

「でも球技大会でダンク決めてたろ?」

「あれくらいなら」

「ダンクは『あれくらい』じゃないだろ、なあ影井」

話を振られ、「うん」と小さく頷く。
あんなに毎日2人きりの時間があって、気持ちが分かり合えるようになんて触れ合って、俺は才野くんのことを何も知らないことに気づいた。

いや、知ろうとしていなかったのかもしれない。