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「昨日教えてくれた心理テスト、あれ当たらないよな」
帰り道。元凶を叩くため、待ちに待ったこの時間。
こんなに1日が長く感じられたのは初めてだった。
軽い通学鞄を揺らしながら呑気に歩いている隣の、柴田という男を睨んだ。
「いや、あれマジで当たるやつだよ?」
「嘘つけ、ネットで調べても出てこなかった」
「そりゃそうだわ、俺の姉ちゃん大学で心理学専攻にしてて、そこの教授の最新のやつらしいし」
「…絶対嘘」
「なに?誰かにやってみたわけ?」
「…」
「へえ」
「何も言ってないだろ」
柴田は意味ありげにニヒルと笑って俺の肩に腕をまわした。
「あれさ、AとBはフェイントみたいなもんだよ」
「フェイント?」
「Cという本当の知りたい部分をぼやかすための飾りみたいなもん。だからあれは好きな人にやるべき」
ぐわりと押し寄せる感情で頭が揺れた。俺はなんてタイミングでなんてやつにやってしまったのだと。
どうりで柴田が俺に教えた時、試しにやってみるではなく、先に答えを説明したのだ。極め付けはこれだ、「影井もやったら面白そうなやつにやってみろよ」だ。ふざけるなよ、こいつ。
「誰にやったんだよ」
「…同じクラスの、割と目立ってる男子に」
「ナンデ?」
「気まぐれで『面白い話して』って無茶振りされて」
Cの答えに、なぜか自分の名前がでました。とは、流石に言えない。笑えない、面白くない、超気まずい。
柴田は「なるほどなあ」と少し興味をなくしたように、俺の肩から腕を外した。
「確かに話題に困った時にはいいよな心理テスト」と両手を頭の後ろに組みながら、今日あった度肝を抜く出来事のなど知る由もないアホ面で歩く柴田。
まあ、言ってないから当然なんだけど。アホ面は元々。
中学の時から仲のいい柴田。おそらく、俺が何も知らないままあの心理テストをすればA、Bのどちらかにこいつの名前は入るだろう。
Cはないな、確実に。だって『好きな人』だし。
…いや、待て。
「柴田」
「あ〜?」
「『好き』ってさ、恋愛だけとは限らないよな」
自分の期待を込めた声色に柴田は「ん?」と考えるように瞳を上に向ける。
「心理テストの答えの話してる?」
「そう」
「いや、Cの「好きな人」は恋愛のやつだよ、ラブだよ、ラブ」
「……嘘だ」
「嘘じゃないって、だから「好きな人」に使えって話だろ?バカだろお前」
「柴田に言われたくない」
「喧嘩なら買うぞコラ、お前特進クラスの1組に進級したからって調子乗んなよ」
「そんな話は今してないだろ」と呆れて、柴田の腕を軽く肘で小突く。1年の時は同じクラスだったものの、2年に進級し柴田とはクラスが別れてしまい、学校内ではあまり会わなくなった。
帰り道にこうやって1日あった出来事をぶつけ合うのが日課である。
「うわ、今の会話で嫌なこと思い出したわ」
柴田はそう言って顔を顰めた。思い出した怒りをぶつけるように俺の肩を拳で軽く叩いた柴田。
全く痛くはなかったが、「なんだよ」と仕返しに自分の鞄を柴田にぶつける。
鞄につけているバスケットボールのストラップが小さな音を立てて揺れた。
「同じクラスの沙織ちゃんに心理テストやってみたんだけど、Cの答えさ、お前と一緒のクラスのあいつだったんだよ」
「あいつ?」
「妙に騒がれてるやついんだろ?ほら、めちゃくちゃイケメンの」
嫌な予感がした。
「才野 月ってやつ」
一瞬離れかけていた出来事が脳内で蘇る。ゆっくりと自分の方に向けられた人差し指。
整った薄い唇が「影井 楓」と動いた。
Cの答えは、
「好きな人」
「は?」
「いやだから、沙織ちゃんの好きな人が才野って、どうよ、ああやっぱりそこいくかあって感じだよな。ショックだわ、俺気づいたら振られてるし」
「心理テストが間違いって可能性は」
「ないな」
「なんで」
「結果言ったら、沙織ちゃん納得してたし」
拗ねたような口ぶりでそう言った柴田に「納得してたのか」と落胆の声をもらす。
それでも才野くんの出した答えが本当のことだとは到底思えない。
席替えで後ろの席にはなったものの今日までほとんど話したことないし。
ーーー「影井 楓」
名前を知っていたことすら驚きだった。
「嫌いな人」だと嘘をついてしまったことに罪悪感はあるものの後悔はしていない。俺の嘘は正解だった。
だって、「好きな人」って、それこそあり得ないだろ。
「沙織ちゃん、振られてくれないかな」
「性格悪」
「好きな人の好きな人なんて嫌いに決まってんだろ、あっ、そうだ」
柴田は手のひらに拳を縦に乗せて妙案だと言わんばかりに瞳を煌めかせた。
「沙織ちゃん、才野にあの心理テストやってみてほしいよな」
「絶対やめた方がいいと思う」



