学校イチのイケメンに心理テストしたら好きな人が俺だった




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俺たちの関係に名前はまだない。

ーーー「ごめん柴田、今日は先に帰って」

ーーー「え〜、沙織ちゃんに振られたばっかりなんだけど!!話聞いてほしかったのによ!お前まで俺を見放すんか」

ーーー「今度、話きくか」

「ら」を打つ前に、持っていたスマホが奪われる。

「あ」

「終わった?」

あと一文字だったのに、柴田への返信は強制的に終了させられた。「終わった?」裏を返せば「遅い」である。
俺のスマホを画面を伏せて机に置いた彼を軽く睨んだ。

「まだ、返信できてない」

「一緒に帰れないことは伝えたんだろ」

「まあ…」

放課後、視聴覚室。
分厚いカーテンにより、教室とは少し雰囲気が違う。
前に授業の時に少し遅れて入ってきた俺たちが座った、端の机。並んだ椅子に座って、授業の時は当然前に向いていた体は今、互いが互いの方を向いている。

あの水族館の休日が明けてしまった。案の定、色々と考えてしまって眠れず、頭が正常に働かないままぼうっとしていたら学校は終わっていた。気づけば放課後である。

きっとあの日のことは、なんてことないただの休日で、もはや夢で、また何も変わらない平凡な学校生活を送ると思っていたのに、なぜか俺は、才野くんとここで2人きりである。

柴田への返信が不完全燃焼のままなのがどうしても気になって、才野くんの側に置かれている自分のスマホを視界に入れた。

才野くんをちらりと見る。目があった。

「っ」

隙をつくようにスマホに手を伸ばせば、幾分か早く動いた才野くんがスマホを手に掴み、上にあげる。

「才野くん…俺のスマホなんだけど」

「渡したらまた長い」

「あと一文字っ!」

腰をあげて奪い返そうとするが才野くんも立ち上がったため、より難しくなる。
才野くんの体に手が触れるが、これはスマホを奪い返すために不可抗力で、腕をめいっぱい伸ばしているのに才野くんは確実に届かない距離にそれを持っていく。イラ。

「身長、高いからって、そういうのやめろよ」

「影井が小さいんだろ」

「小さい言うなっ」

あと少しで届く距離までジャンプするが、指にスマホが触れるだけで掴むことができない。

「影井」

「なんだよ、早く返せ」

「返したら、キスしていい?」

「え」

ぴたりと跳ねていた体が硬直した。
スマホを見上げていた顔を才野くんの方におろす。
今、この人、なんて。
無意識に掴んでいた才野くんの服の裾を慌てて離す。

才野くんは、ゆっくりと腕をおろして、そして持っていたスマホを俺のポケットに入れた。

「はい、返した」

「いやいやいや、あの、待って才野くん」

「待たない」

「俺、こういうのは、っ!」

身が後ろに下がるのを才野くんは逃してくれない。
俺の手を掴んで引き寄せて、気づけば背中に壁を感じる。強制的に逃げ場をなくされてしまった。
才野くんは、ふっと短く笑った。

「残念、今日は逃げられないな」

本当に、この人、

「こ、この前のこと、冗談とか、そういうのじゃなかったりする?」

「冗談って何?なんならこっちは譲歩したつもりだけど」

「譲歩、って」

「俺が、影井の、鈍感で、逃げ癖あって、自己肯定感がとんでもなく低くて、どうしようもないバカなところを推し量ったってこと」

「バカって…俺のこと貶したいだけ?」

「違うよ、そういうところも含めて、俺が影井のことを好きかもしれないから、確かめようって話」

「す、好きって…それはその」

「もう一回心理テストでもするか?」

才野くんの指先が俺の制服の上からお腹あたりをさらりと撫でる。
試すようなその瞳が俺を射抜いた。逃げたい、無理、なんでこんなことに。
首をふるふると横に振った。緊張をどこに逃したらいいか分からずぎゅっと拳を握る。

近づく距離にバカみたいに心臓が跳ね上がった。
体中が熱を帯びていく。

「ま、待って、才野くん」

「この前だってキスしただろ」

だからいいってことじゃないと思うんだ。
それに水族館でのことは一瞬で、刹那の夢だと思い込めばなんとか脳内から放り出すことができたかもしれないのに。
しれないのに!

咄嗟に両手で口元を隠した。

「ふざけてんの」

才野くんの低い声。ふるふると首を横に振った。
指の隙間から抵抗の声を出した。

「才野くん言ったじゃん、『俺たちのペースで』って」

「言ったけど」

「才野くんの言いたいことは理解したつもりだけど、その、俺は、最初からキスとか、そういうのは…」

「この前したって」

「あれは!才野くんが抵抗させてくれなかったから」

「嫌だったってこと?」

「違う!」

咄嗟に放った言葉。才野くんは「へえ」と不敵に笑った。嫌ではなかった、じゃあ、なんだよと、その瞳が問いかけているようでやっぱり逃げたくなる。

「じゃあ俺たちは何から始めたらいいわけ?影井」

「っ、それは、えっと、手、繋いでみる、とか」

「分かった」

才野くんは俺の手を絡めとった。容易く、何の躊躇もなくだ。

「これでいい?」

繋がれた手を顔の前に持ってきてそう聞かれる。顔に熱が溜まって頭が爆発しそうだった。
なぜ、才野くんはこんなに冷静なんだろう。

「…さ、才野くんの気持ちが、分からない」

「じゃあ、もっと触れた方がいいだろ。手繋ぐぐらいじゃ足りない」

「なっ、だいたいこの時間って誰のためのものなんだよ、もう心臓もたないし、そろそろ解放し…ん」

絡みとられた手が壁に押し付けられて、そのままキスをされる。
一瞬触れた唇が離れて、才野くんが口を開く。

「影井のペースに合わせたら、そうやってぐちぐち変な理屈並べ出して逃げ出す余裕与えるから、合わせてやらない」

「なっ…ん」

またキスをされて、状況についていけない頭の中で「どうしよう、どうしよう」と考える。
才野くんが救いにもなっていない手を差し伸べた。

「…恥ずかしいなら目つぶってれば」

ほとんど触れたままの唇がそう動く。物凄く解せないがぎゅっと目をつぶった。
絡まった手からの熱や、触れる才野くんの唇が鮮明に伝わってくるので逆効果だった。