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「なんで先輩たちが死に物狂いで優勝を取りに来たかやっと理由が分かったぜ!
小野寺、田中もちょっとこっち来て!」
そう言って朝から茶色の封筒を片手に才野くん、ないし自分のところに駆け寄ってきたのは宮瀬くんだ。
球技大会から数日後の朝、宮瀬くんは俺の机の上に茶色の封筒を勢いよく置いた。
才野くんも気乗りしない態度でくるりと体をこちらに向ける。少し目があってすぐに逸らした。
あの日以来、まともに話していない。
「なにそれ?」
と、こちらに来て早々不思議そうに封筒を指差す小野寺くんに、宮瀬くんが得意げな顔をして自らの腰に手を置いた。
「去年、球技大会優勝者には何がもらえたと思う?」
宮瀬くん以外の4人が首を傾げる。全員、去年は1年生だったこともあり優勝には程遠かったのだろう。それに3年生が優勝を総なめにしていた覚えがある。
「なんと、去年は焼肉店の食べ放題券らしい」
「しかも人数分!」と、はしゃぎすぎて声が裏返っている宮瀬くん。期待の声色で「おお!」と、自分と小野寺くん、そして田中くんが声を発した。
つまりだ、この茶色の封筒の中には。
「開けてみろよ、影井」
宮瀬くんがにこやかにそう言う。全力で首を横に振った。
「いやいや、宮瀬くんが取りに行ってくれたんだから宮瀬くんが」
「それを言ったら今回のMVPは才野だろ」
小野寺くんの言葉に先ほどからこの状況を達観していた才野くんの方に皆の視線が向けられる。
確かに確かにと数回頷いたが、才野くんは小さくため息をつく。
「俺はいい、田中、お前があければ」
「ええ?俺?決勝10秒で退場したのに?ここは小野寺くんに任せよう」
「分かった分かった、じゃあ俺があけまーす」
たかが誰が封筒をあけるかの押し付け合いで、面倒くさくなったのか小野寺くんが封筒を持ち上げて中を取り出した。
そしてなぜかチケットの表面を見て期待に満ちていた顔が真顔になる。
「お、小野寺くん?どうかした?」
思っていた反応と違ったため、おそるおそる問いかければ、小野寺くんが封筒から取り出したチケットを俺の机に置いた。
「なーにが焼肉食べ放題だ」
「え?」とみんなでそれを覗き込む。
書かれている文字をゆっくりと読みあげた。
「…ーー水族館無料招待券?」
皆が顔を見合わせる。そして、宮瀬くんが落胆したように頭を抱えてしゃがんだ。
「水族館のチケットって!去年とのギャップありすぎだろ!ふざけんなよ」
確かに焼肉食べ放題かと思ったら水族館だったというのは、食欲旺盛な男子学生にとっては落差がすごいと思う。
あれほどの期待だったため、宮瀬くんの気持ちが理解できた。焼肉食べたかった。
宮瀬くんの落胆ぶりを苦笑いで眺めていれば、小野寺くんが1枚手に取り、ひらひらと揺らす。
「才野2枚いらない?俺いかないし」
「1枚もいらない」
才野くんの即答に小野寺くんが才野くんの肩に腕をまわして不敵に笑った。
「お前球技大会が終わってからひっきりなしに告白されてるだろ?、前からお前のモテ具合はやばかったけど、今はもっと凄まじいし」
そう、小野寺くんが言うとおり才野くんはここのところ毎日女子に呼び出されており、何食わぬ顔でいつも教室に戻ってきているが、風の噂では全員告白で、全員振っているらしい。
才野くんの顔が「だからなんだ」と言わんばかりの顰め顔になった。
「本命のやつと行ってきたら?そろそろ彼女作らないと告白ラッシュに終止符打てないだろ」
才野くんの片肩に掛かった小野寺くんの手が揶揄うように上下に動く。
持っているチケットがゆらゆらと揺れていた。
そうか、水族館、本命と、ね。
本命、か。
あれ、なんで今モヤっとしているんだろう。
いいじゃないか、自分には関係ないことだし。
「そういうのめんどいからいい」
そう言って才野くんは小野寺くんの腕を鬱陶しそうにはぎ取った。
「めんどい」か。なんとも言えない気持ちになっているうちに才野くんとまた目があってすぐに逸らす。あ、今のはあからさますぎたかもしれない。
「つまんないな、じゃあ行きたいやつだけもらうって感じで」
と、行き場のなくなったチケットが俺の机に戻ってきた。
さあ、どうしよう、という空気がしばらく流れる。
しばらくして口火をきったのは田中くんだった。
「あの」
5枚のチケットを田中くんが手に持って顔の前で扇のように広げる。
「これ、皆で一緒に行きませんか」
田中くんの提案に一瞬の沈黙が流れる。「だめならいいんですけど…俺は行きますけどね」とか弱い田中くんの声。
慌てて返事をした。だって、本当に行きたいと思ったから。
「いいと思う」
「お、意外と影井がのってきた、どうする?才野」
小野寺くんが才野くんに話をふれば才野くんは一瞬俺を視界に入れて小さく頷く。
「行く」
「ええ?才野行くの?んだよ、野郎と行っても楽しくないだろ」
「じゃあお前は来なくていいよ宮瀬」
「んなこと言うなよ、才野、お前俺のこと『友達』と思ってくれてんだろお!」
「…いつまでそれ言ってんの、しょうもない心理テスト引きずりやがって」
ーーーしょうもない心理テスト。
しょうもない心理テスト。
しょうもない、心理テスト。
まあ、そうですけど。というか、水族館行くの才野くん。
「しょうもないって、お前、俺たちと絡み全然なかったのに無茶振りされて心理テストしたあげく、『嫌いな人』って言われた影井の気持ち考えろよ、才野ー!」
「全部言わないでいいよ、宮瀬くん」
ああ、このメンバーで水族館か。
やっぱり少し心配になってきた。


