学校イチのイケメンに心理テストしたら好きな人が俺だった


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「ーーーーで、ここに当てはまるAからC、思い浮かべた人を言ってみて」

人は「何か面白い話をして」と雑な振りをされた時、どんな話をするのだろうか。
仲の良いやつであれば、その日に合ったみじんこ程に笑える些細な話、顔を合わせれば挨拶をする程のようなのやつにはそれ相応の雑談。

では、ほとんど話したことのないクラスのやつらには?

「聞いたことない心理テストだな、才野、お前答えろよ」

「なんで俺なんだよ」

「お前みたいな何考えてるか分かんないやつがやるからオモロいの」

俺の前の席に座っている才野と呼ばれるイケメン。
そして才野くんの周りに立っているのは才野くんといつも一緒にいる友達2人。
クラスの中でも目立つ人たちの前で、なぜ自分がこんなことをしているのかって。そんなの俺が聞きたい。

「Aが小野寺で、Bが宮瀬」

才野くんはほとんど話したことのない俺に分かりやすくするためか、出した名前の人を人差し指で軽く示した。
才野くんの右隣に立っている人、先ほど才野くんに心理テストをするように強制した男子が、小野寺くん。そして、才野のくんの左隣にいるのが宮瀬くんだ。

最後の答えに、才野くんは少し考えるように瞳を下に向けた。

なんてことはない、ただの心理テストだ。
才野くんのことを知ったところで自分には関係のないことで。
ただ、学校イチのイケメンで、人気者の彼の視界に入り込んでいる中心人物が誰なのかは純粋に気になった。
ゆっくりと、才野くんの人差し指が動く。
すぐ側で示すことができるということは、このクラスにいるということだろうか。え、というか、「いる」の。

「Cは、」

才野くんの、好きな…

「影井 楓」

思考が停止した。数回の瞬きのうちに状況が変わるかと思われたが、向けられた人差し指の方向が変わっていない。
何かのギャグか、いやでも待て、この心理テストの結果をこの人たちはきっと知らないわけで、え、知らないよね?まさか知っていて、面白くもない冗談を言っている可能性、ありますか。

猜疑心を携えて、彼らを見つめれば揃いも揃ってきょとん顔だ。何が何だか分からん、どういうことだ。

影井 楓という人物は、正真正銘俺である。

「嘘です、Cはやっぱりいません」もしくは「違う人です」というオチを待っていたが、そんな素振りもなく人差し指は降ろされた。
そして痺れを切らしたのか、

「早く結果を言えよ、結果を」

と才野くんに急かされる始末。どうするのが正解か、結論を出す前に自分の口は動き出した。

「Aは、信頼してる人、Bは、友達、Cは…」

ごくりと唾を飲み込む。

両隣の小野寺くん、宮瀬くんは結果を嬉しそうに「そんなこと思ってたのかよ、才野」「俺もお前とズッ友」などと揶揄い口調で絡んでいるものの、才野くんは残りのCの結果を待つように俺の方を見つめている。
最初、1番興味なさそうだったのに。失えよ、興味。

「Cは」

3人の「Cは?」と言う声が重なる。言えるわけないだろう。
一瞬、教室にある時計を視界に入れた。朝のホームルームが始まる5秒前。

Cは、

「…嫌いな人」

ーーーー好きな人、である。


一瞬、この空間だけ静かな時間が流れて終わりを告げるようにチャイムが鳴る。
聞き逃さないように前のめりになっていた体を小野寺くんと宮瀬くんが気まずそうに起こした。

2人は席に戻る前に順番に俺の肩に手を置いていく。

「影井くん、俺が話を振ったばかりにごめんな」

「小野寺くん…」

「まあ、そんなに話したこともないしさ、たぶん才野も悪気はないよ、どんまい影井くん」

「宮瀬くん…」

2人は俺が才野くんに嫌われているという結果よりも、自分が「信頼してる人」「友達」という結果に喜びを隠せていない様子で若干口角を上げながら席に戻っていく。
本当の結果を言ったら、それこそとんでもない空気なっていただろう。彼らが結果を知らなかったのならば、俺のついた嘘は正解だ。

顔を前に向ければ、才野くんは少しの動揺をみせた。
たぶん、その場にいた俺の名前を出さないのは失礼だと思った故の答えなのだろう。
気を遣わせたあげく、こんなのは確かに申し訳なかった。

「才野くん」

最近、席替えをして俺は才野くんの後ろの席になった。どんなに気まずくてもこの状況から、俺たちが逃げられないことは確定している。

「たぶんあれだよね、この場にいた全員の名前を出してくれた感じだよね、俺に気を遣ってもらったのに気まずくしてごめん」

「…いや、ちゃんと思い浮かべた人を言った」

なおさら気まずいって。

そんなことは言えず「そう…」と返事をする。
才野くんは「ごめん」と小さな声で謝って体を前に向けた。
そうか、才野くんからしてみれば思い浮かべた人が俺だった故に、『嫌い』ということが彼自身の中で確実な答えになってしまったわけで。

でも、じゃあ、なおさらなんで『好きな人』?

何か言葉をかけようか迷ったが、教室に入ってきた担任により気まずい雰囲気のまま、他愛もない『心理テスト』の時間は終わりを告げた。